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それからの黒尾さんは早かった。
すぐにバレーボールの大会の資料を渡され、試合までの時間もよかったら、なんて甘い誘い文句にほだされて連れて行かれた控室みたいな場所で話を聞き、そうこうしている間に気づけばアリーナで試合開始を迎えていた。
バレーボール協会競技普及事業部、恐るべし。
でも、それだけ事前知識を入れられても、やっぱりバレーボールがどういうものかは漠然としていて。
だからこそ、始まった試合は想像以上のものだった。
『う、わぁ…!!』
「おーおー、すんげーエグいインナー打つなぁ」
『何ですか今の、!すっごい威力…!腕もげそう!』
「ハハッ、もげないって。
懐かしいわそのセリフ、研磨みてぇ」
『懐かしい?』
「いや、こっちの話」
大きなコートと、眩しいほどの照明。
ボールとシューズの音と、大きなかけ声。
その中心にいる選手達はみんなキラキラしていて、その熱気は観覧席まで届いているよう。
そして何より、目を見張るような迫力とそのプレーに、わたしの口は開きっぱなしだった。
『今打った人って、この…木兎選手ですよね!』
「そう。どんな時でも普通に強い、バケモンみたいな選手」
『さっきのサーブは、牛島選手ですね!』
「お、さすがにウシワカは知ってますかね」
もらった資料で選手を確認しながら、わからないことは黒尾さんが横で解説をしてくれて。
そのおかげか、初めて観るスポーツだと思えないほど、思い切り試合に没頭できた。
黒尾さんと少しでも一緒にいたくて、少しでも爪痕を残したくて踏み入れた場所だけれど。
いつの間にか、すっかり夢中になっていた。
バレーボールを広める。
その目的のためだけに声をかけられたんだとしても、結果的には全然よかった。
いや、やっぱりちょっと悲しい気持ちはあるけれど。
それでも、それを上回るほどの、バレーボールの魅力を感じてしまった。
黒尾さんの仕事は、なんて素敵なんだろう。
「面白いでしょ、バレーボール」
『はい!とっても!』
試合が終わった時、黒尾さんに答えたその言葉に
嘘はなかった。
まだ残る興奮のまま試合の感想を告げれば、黒尾さんは満足気に微笑んだ。
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nameless - 1話1話読み進めていく毎に高揚感が募っていくような作品でした!またいつか、続きを楽しみにしております (12月20日 10時) (レス) @page42 id: e6c0ea655a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 水傘るんさん» 水傘るんさん!ありがとうございます!このシリーズに黒尾さんは必須!と思っていました!大人ですよね…!ありがとうございます頑張ります!! (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 菜花さん» 菜花さん、ありがとうございます!彼らの大人時代はどんなのかなぁという妄想から始まった作品ですが、そう言っていただけて嬉しいです🍀💚今後もぜひよろしくお願いいたします! (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
水傘るん(プロフ) - 面白すぎます........えっやばい。黒尾さぁん.....大人の男すぎますって....最高です....!!!無理されない程度に更新頑張ってください!!応援してます!! (2023年3月26日 2時) (レス) @page27 id: e67109cbac (このIDを非表示/違反報告)
菜花 - めっちゃ大人って感じのハイキューの小説が読めるとは…!と感激しています!スッと内容が入りやすくて魅了されるような文章で尊敬します!なんか上からですみません!応援してます! (2023年3月20日 3時) (レス) @page27 id: da77361163 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな | 作成日時:2023年1月20日 20時