想い ページ28
先日の夢を見てから、家の事を想う事が多くなった。
否、家というよりも母の事だ。
母は病弱でよく身体を壊す。
私が家を出た時には立って見送りに来る程元気ではあったが、私が家を留守にしている間にまた身体を壊していたら…。
『はぁ……』
思わずため息が出てしまう。
「最近、ため息を吐く事が多くなったね」
ふと顔を上げれば目の前にはバーメイドだと言う彼女が居た。
『デミさん…』
「悩み事かい？今丁度用意とかが終わった所でさ、アタシで良ければ聞こうか」
自然と頼りにしてしまう様な笑みでそう言う。
気が付けば母の事を含めてベラベラと喋ってしまっていた。
「そういやAは元々ゲームの参加者じゃなくて、ただ家に帰りたいだけの迷い人…だったね」
『はい…でも、ここまで良くしてもらってただ帰るって言うのも…』
デミは一瞬きょとん、としたかと思えば次の瞬間には笑っていた。
大丈夫、なんて言いながら私の横までやって来ると背を叩く。
「皆Aを家に返すために頑張ってるさ(まぁ中にはそうじゃない奴もいたけど…)、アタシ達の事は気にしないで良い」
『…ありがとうございます』
涙混じりにふにゃりと笑うとデミも安心した様に笑う。
「Aの書く小説、楽しみにしてるからさ。帰ったら是非書いてくれよ？」
『…勿論！頑張ります！』
なんて、笑い合う。
後ろから私の名前を呼ぶ友の声。
「Aー！ノートンさんが呼んでたのー！」
『うん、わかった。…あ、じゃあ失礼しますね！』
会釈をするとデミを手を振り微笑み、私を見送ってくれた。
「…ほら、Aは家に帰りたがってるのさ。あまり引き止めちゃいけないよ？」
壁に向かってデミが声を掛ける。
何も無かった壁に、突如"扉"が出来上がり、扉から特徴的な衣服に身を包んだ女性が現れた。
「それは私に言ってるのかい？」
「アンタ以外に誰がいるのさ、フィオナ。全く、盗み聞きとは趣味が悪いねぇ」
ふふふ、と口元を抑えて笑うフィオナ。
目元はあまり笑っていない。
「引き留める気は無いさ。私は彼女の意思を尊重したいからね」
彼女が口を閉ざす事は無い。
「だけども彼女はきっと此処にまた戻って来る。
再びくふ、と笑うとそのまま扉に消えて行くフィオナ。
残ったデミは酒を一口飲む。
「あぁほんと、信者って言うのは恐ろしい」
苦い酒でも飲んだ表情でデミは呟いた。
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