「濃紅と濃黄の中で」(参) ページ30
荒はそのままAに顔を近づけたが、頭部に鈍い痛みが走った為、あと少しのところで止まった。
いつの間にか召喚されていた紙人形が、持っている箒で荒の頭をかなり一生懸命叩いていたのだ。
包囲が緩んだ隙にAは荒の腕の中から素早く脱出した。
荒に睨まれた紙人形はビクリと強張り、急いでAの手元に逃げ帰る。
半泣きのAは、地面に叩きつけるような勢いで叫んだ。
「少し散歩して来ます!」
紙人形を消してから、Aは早歩きで荒の元を離れて行った。
「……つれない奴だな」
そう呟いてから、荒は木にもたれ掛かった。
道なりに歩いてそこそこ荒と距離を離したところで、Aは立ち止まる。
目を閉じても熱い頬を叩いても首を振っても、あの真剣な表情で迫ってくる荒が頭に焼きついて消えてくれない。
「…………?」
喧しい心臓と戦う最中、Aは遠目に、紅葉銀杏を見上げてワイワイ歩いている妖達を見つけた。
「キョンシー三兄弟」
声が届くように声量を上げて呼ぶ。
キョンシー達は一斉に振り向いた。
「うわあっ!? Aさん!?」
Aの姿を見たキョンシー弟は何故か大袈裟に驚いていたが、Aは気にすることなく三兄弟のところへ歩いて行った。
「兄弟で揃ってお出掛けですか?」
「うん! 栗拾いに行って来たの! 今から帰るとこ!」
キョンシー妹が元気良く答える。
見るとキョンシー兄は棺桶ではなく、イガを取り除き済みの栗が大量に詰め込まれた籠を背負っていた。
楓林の近くには、木の実などが豊富に自生している山もあるので、そこで拾って来たものだろう。
「今日の晩御飯は栗御飯〜!」
小躍りするキョンシー妹に、Aは微笑んだ。
「栗御飯ですか。良いですね」
ほかほかの白飯と栗の混ぜ合わせは、想像するだけで食欲をそそられるもの。
今度紙人形に作らせるか、自分で作って食べるかの二択をAは思案する。
「ねぇーところでさ、Aさん達」
Aはキョンシー妹の「達」という言葉に、謎の嫌な予感を感じたが、その正体は次の瞬間に明らかとなる。
「どうしてあそこでチューするのやめちゃったの?」
せっかく治った頬の発熱が再発した。
「の……覗いて……いたのですかっ……!?」
震えるAを見て一番慌てたのが、キョンシー弟。
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時