「濃紅と濃黄の中で」(肆) ページ31
「こら妹! それ言ったら陰からこっそり見てた意味がなくなっちゃうじゃないか!」
「あぁっ! そうだった! ちぃ兄ちゃん、ごめーん!」
成る程、キョンシー弟がAを見て焦ったのは、覗き見していたのがバレてしまったかと思ったから、という訳か。
「よ、よーしお前らー。もう家に帰るぞー!」
間延びした声でぎくしゃくしながら、キョンシー兄は弟と妹の肩をポンと叩く。
それからAの側に歩み寄り、背負っていた籠を地面に置いた。
「良かったら栗分けてやるよ。彼氏さんと二人で食べてくれ」
「えっ……ありがとうございます」
「おー! だい兄ちゃん太っ腹ー!」
褒め称える妹の前で兄は「まあな」と胸を張った。
キョンシー三兄弟が去って行くのを見送ってから、Aはお裾分けの栗が包まれた手拭いを袖の中に仕舞う。
「……」
Aはまだ、荒のところに戻ろうと思える気分ではなかった。
あんなみっともなく赤面している姿をキョンシー三兄弟に観察されていたのだと思うと……顔から火が出そうだった。
Aは恥を偲ぶように溜息をつく。
荒には悪いがもう少しだけ散歩して来ようと、再び歩き出した。
「かーえーで!」
「……ぇっ……で……」
またまた聞き覚えのある賑やかな声。
Aは導かれるように声の持ち主達の元へ急ぐ。
「黒童子、白童子」
呼ばれた二人は爛々と目を輝かせた。
「A様ー! こんにちはー!」
「はい、こんにちは」
喜び全開で駆けて来る黒童子と白童子を、Aは屈んでから両腕を広げて受け止める。
童子達がギュウギュウと強い力でしがみついてくるので、やや息苦しそうにしながらも、Aは二人を温かく包み込んだ。
「よっ、A」
「奇遇ですね」
「黒無常、白無常」
無常兄弟も、ゆったりとAと童子のところへ歩いて来た。
四人が人間界に現れる時は、何かしらの事件が絡んでいたりすることが多い。
だが今は、任務を終えた息抜きの真っ最中なのだろう。
そう推測出来る程和やかな雰囲気である。
黒童子と白童子を見習い鬼使いとして側に置くようになってからは、仕事後の寄り道が増え真っ直ぐ冥界に帰れない。
以前にそうぼやいていた黒無常と白無常だが、なんだかんだ言って自分達も満喫している様子だ。
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時