「濃紅と濃黄の中で」(伍) ページ32
ふとAは、白童子の手にしっかりと握られている綺麗な朱色の楓の葉を見た。
「かえでー!」
「楓、ですね」
白童子が掲げて見せたのを、Aは笑って言葉を繰り返した。
「ほら、黒童子! かーえーで!」
「……か……ぇ……」
か細い掠れた声が、黒童子の喉をひゅうひゅうと通り抜けて発せられる。
「……言葉の練習、ですか?」
Aの質問に、白童子は俯くように頷いた。
「まだ僕の名前以外、ちゃんと喋れたことがなくて……これでも少しは話せるようになった方なのです……」
そう言った白童子の表情は心なしか寂しそうで、Aは勿論、黒無常と白無常も顔を曇らせてしまう。
黒童子は口が利けない。
相手の言葉はちゃんと理解出来ているようだが、自分で声を出し意思疎通することが出来ない。
何故そうなってしまっているかの原因は、黒無常曰くの「どうせろくでもない過去」が関わっているようだが、真相は黒童子本人と相棒の白童子のみぞ知ることだ。
白童子は未だに自分達の過去を話すのを嫌がっている。
Aにだって誰にも話したくない過去を持っていたので、その気持ちは痛い程分かっていた。
だから敢えて無理に聞かないでいる。
Aと同様の心境でいる黒無常と白無常も、白童子が話したくなるまで気長に待っているのだ。
「……あっ!」
暗い表情から一転、無邪気な笑顔の白童子は一瞬だけAを見つめてから、直ぐ黒童子に向き直った。
「黒童子、A様だよ! A様!」
「……ぁ……ぅ……?」
どうやら白童子は、黒童子にAの名を呼ばせたいらしい。
だがそう簡単に上手くいくはずも無く、黒童子は喉を詰まらせる。
もし黒童子がAの名を呼ぶことが出来たら、それはAにとって素敵で光栄なこと。
期待の意を込めAは黒童子としっかり目を合わせて、冷たくも小さき柔らかな手をそっと握った。
優しい眼差しを送られ、戸惑った黒童子は体を小さく震わせる。
「A」
そうAは自分の名を一文字ずつゆっくりと黒童子に聞かせた。
「……うっ……うぅぅ……」
Aの瞳に魅入られたかの如く黒童子は、頬をふわりと染めて抜けた声を漏らす。
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時