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「濃紅と濃黄の中で」(弍) ページ29

「……!」


荒は自身の口元に違和感を覚えた。


何かヒラヒラとしたもので唇を塞がれているような、そんな感覚。


咄嗟に触れると乾いた紙の感触が指に伝わる。


紙人形が荒の口を封じるように、ぺったりと張り付いていたのだ。


荒は鬱陶しそうに紙人形を摘んで引き剥がす。


その瞬間に紙人形は煙となって、周囲の空気に溶け込んでいった。



荒は紙人形を召喚した張本人であるAの方を見た。


じわりじわりと顔を赤くしながら、こちらを睨んでいるAに、荒は満たされない表情で小さく溜息をついた。


「まだ一度もしていないだろう」


「は……はい……?」


「接吻」


Aの頬がますます紅潮した。


視線を彷徨わせ、軽く握った拳で自身の唇を隠し、子鹿のように震えている。


他の者が今のAを見たら、新鮮過ぎるあまり言葉を失ってしまうかもしれない。


これ程初心で可憐な反応を独り占め出来るのは、恋人の特権と言ったところだろう。


「荒様はいつも唐突なのです!」


「唐突なものか。これでも常に機会を伺っていたのだぞ」


一通り動揺し終え早速不平を口にするAに、荒は拗ねた幼子のような言い分を返す。


「し、知りません、そんなこと……!」


Aは赤い顔のままそっぽを向いた。


どうやら荒の中では長い準備期間があったようだが、A目線で言えば唐突なことには何ら変わりない。


荒はAの手首を掴んで、強引に自らの方へ身を寄せさせた。


「何が不満だ? 一言断りを入れる必要があったのか?」


「えっ……そ、そう、ですね。急遽ではなく前もって言って頂けた方が……」


想い合う者同士であるから確認の言葉は不必要だと、荒は思っていたのだろう。


だがAはそうは思わない。


初めての経験には、心の準備というものが必要不可欠なのだから。


何故荒のみが準備万端で、Aには準備する一刻が与えられないのか、Aはそこに横暴さを感じていた。


「……ならば望み通りの手順を踏んでやろう」


言うなり荒はAの体を直ぐ背後の木に押しつけ、両腕をつき退路を断たせた。



「今からお前の唇を貰う。だから逃げるな」



それは許可と言うより脅迫ではないか。

「濃紅と濃黄の中で」(参)→←「濃紅と濃黄の中で」(壱)



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設定タグ:陰陽師 , 陰陽師(ゲーム) ,   
作品ジャンル:恋愛
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます!!…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう!(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます!荒来てくれえぇぇ!大歓迎だぞぉぉお! (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» !!確かに!荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです!ありがとうございました! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 「愚か者め!」「愚かな・・」とかもよく言ってますが、「愚か」って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな・・とも思いました>< いえ!とんでもないです!またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです!(^///^)お返事くださり有難うございました! (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね・・・常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(;_;)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに・・(;_;) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イズモ | 作成日時:2018年6月30日 20時

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