【twst】幸福兎はワンダーランドの夢を見るか (ページ4)

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“お父様”は新たに子供を迎えた。その子供は忽ち名声を得た。こうなると少女は完全にお払い箱だった。

　少女は追い出されるように屋敷を出て、独り立ちすることとなった。鏡を見ても自分が誰だか分からないほど、“お父様”の手によって改造を加えられたのに、捨てられる時は呆気ないのだ。

　少女は幼い頃の記憶を頼りに父親の家に帰った。しかしそこには既に少女の居場所は無かった。そこには父親と、初めて会う弟と、多くの優しい人に祝福された温かい家庭があった。少女の入る隙など無かった。

　ただひたすらに惨めな気持ちになった。悲しい気持ちになった。少女は逃げるようにその場を立ち去った。

　その日初めて、少女は人を殺した。頭蓋骨を叩き割る感覚も、手を滑らせる血液の生暖かさも、絶命する時に憎らしげに此方を見つめる白濁した瞳も、少女は初めて知った。

「——馬鹿みたい」

　少女は呟いた。自分を支配してきた“お父様”は、こんなにもあっさりと死んでしまうような弱い存在だったのだと知り失望した。この男に支配されてきた幼少期が全て無駄のように思えて、涙が溢れた。

　少女は闇に駆け出した。もう全てどうでも良かった。死んでしまいたかった。それでも死ねなかったのは、ただひたすら少女が弱かったから。

　少女は何になりたかったのだろうか。自問して、自答する。簡単だ、少女は愛されたかった。認められたかった。そして抱きしめられたかった。たったそれだけ。されどその願いすら叶わず、少女は手を血に染めた。

　少女は目の前で、人間が“ビースト”に変わる瞬間を見た。インクに犯され獣となった人間を、少女はその手で殺めた。人を殺すなんて、人に愛されるより簡単なことだった。

　少女は全てを捨てた。もうどうでも良かった。

　そして少女は、己が為の組織を作った。

　【エピックオブウェイスト(偉大な廃棄物共の叙事詩)】。これは彼女が捻転した摩訶不思議なこの世界を、仲間と共に生きていくお話。