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芸能界で著名人であるヴィルは、意図的に異性と身を寄せるなど周囲に誤解を与える行動は取らないようにしていた。スキャンダルで飯を食っているゴシップ記者は火のない所に煙を立てるのが得意なのだ。ならば限りなく湿地にして火も煙も立てられないようにしてやることが、“ヴィル・シェーンハイト”というブランドを守るために必要最低限やることだった。だからヴィルは異性にこんなふうに身を寄せられても、基本的にやんわりと押しやるか離れるかして好意がないことを明確に示す。しかし目の前の少女のことは、出会った時から今まで拒めた試しがなかった。その上、この家はオズヴァルトを守る要塞でもある。故にゴシップ記者の無粋なカメラがこの家の中に侵入することは無い。万が一そんなことが起こっていれば、オズヴァルトはすぐに察知してヴィルに伝えているからだ。だからこそ、ヴィルも気兼ねなく彼女と友人らしく振る舞うことが出来た。
オズヴァルトはまたクスクスと笑うと、ステップを踏むように軽い足取りで移動して、オルタンシアの前に立つ。優しい手でキャンパスに触れ、オルタンシアを見上げた。
「ティシアも絶対、そのバスボムはヴィルが使うのが一番良いって言うわ。ねぇ？ ティシア」
オズヴァルトはオルタンシアにそう話しかけたが、オルタンシアは答えなかった。彼女はこの家に他人がいる時は、目を閉じじっと押し黙って絵画のフリをする。人見知りなのだと、オルタンシアは話していた。だからオズヴァルトはそれを信じている。しかしテンションの上がったオズヴァルトは、一番の親友にこの事を報告せずには居られなかった。
ヴィルは一瞬顔を曇らせたが、すぐに「ええ、そうね」と頷いた。
「有難く頂戴するわ。今日のバスタイムはこれを使って身体をリラックスさせる」
「うん、そうして。ヴィルの美しさに自分が少しでも貢献出来ると思うと、アタシも鼻が高いわ」
それからヴィルは、二三言言葉を交わしてから、夜も遅いため帰宅すると告げた。
続く
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作者名：らっこ | 作成日時：2023年1月10日 20時
