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次の日。
五条が外を見れば、永広は農家の仕事を手伝っていた。農業用の服装と、端正な顔立ちはとても合わない。
永広は無表情で作業を手早く終わらせていく。老人達に話しかけられてもにこりとせず会話、しかし、老人達こそ分かっているかのように永広を帽子の上から撫でた。
五条は縁側に座って浴衣のまま、その光景を眺めていた。退屈そうな顔をして。
呪いとは無関係に見える様子に、自分が呪術師である事を忘れてしまいそうになる。
だが、実際そのように見えているのは、蓮川櫻子のおかげだと言っても過言では無い。蓮川櫻子が死んだら、この村は丸ごと滅びる。
ふと人の気配がして横を向いた。立っていたのはその蓮川櫻子だった。
「…五条の坊、着替えぬのか?」
「だりぃじゃん。この浴衣の着心地はいいよ」
ややはだけている浴衣を直しもせず、五条は手をヒラヒラと振る。
「そうかそうか。その浴衣はAの父のものだがな」
「……本人にこれ、用意されたんだけど」
「ハッハッハ!Aはそう言うところがあるからのう」
孫を可愛がる祖母にしか見えないその姿に、五条は小さく笑う。しかし同時に、蓮川に驚いた。
「よく腹筋使って笑えるよ。しかも帯の下に隠すなんて」
「…まさか、腹巻みたいなものじゃよ」
蓮川は帯の上から、自身の腹部を触る。
「とうに覚悟は済ましておる。周りもな」
「…ここに居る奴ら全員呪術界にいたんだろ」
「それだけじゃないさ。全員、わしが助けたという共通点を持つ」
平然と答えた蓮川に、五条はまたもや目を見開いた。
「呪霊に襲われそうになっているところをな。それでも居る人数は3分の1程度。その後別の呪霊に殺された者、再び術師として活躍した者、そして呪術を学ぶことを諦めた者。ここはそう言う場所じゃ、五条の坊には、ちと難しいかものう」
確かに難しかった。呪術を学ぶ事に慣れているから、弱い者の気持ちなんて想像つかない。
「そして、Aの為の呪いじゃよ」
「どういう事?老いぼれ」
「時が来れば分かるさ」
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作成日時:2021年3月9日 0時