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別れ際に ページ2

「また明日」

そう声をかけられて、私は少し首を傾げた。
今の言葉は一体なんだろう。

私に向かってそう告げたのは、まさに今帰ろうとしている青年。
『年若い歌姫』である私の衣装全般を担当する『手先の器用な仕立て人』だった。

呆けたように青年を見返す私に視線を落とし、彼はちょっとだけ眉を下げる。
困っているのかな。

「何か困りごとですか?」

「いいや、そうではないけれど……。『また明日』ってやっぱり伝わらない?」

「明日とは明くる日のことでしょう? 翌日もまた会うという意味ならわかっています」

いくら『年若い』とされる私でも、言葉の意味がわからないほど幼いわけではない。
憤然としつつ言葉を返した。

「いつもと違う言葉をいきなり言われたら、誰だってびっくりすると思います」

状況から察するに、彼はおそらく一日の別れの言葉を言ったのだろう。
耳に馴染みのない言い方をされたら、私でなくとも呆けはする。

それを、まるで私が言葉を知らないかのように問い返されて!
納得がいかない。だって今の流れで私に悪い所はないはずだもの。

「まぁ、それもそうだよね」

正面から反論を受けた青年は、またちょっとだけ眉を下げて。
今度はそのまま小さく笑った。ふにゃりとした柔らかい笑い方。

「俺もね、今日知ったのだけれどね。別れ際に、そういう風にも言えるのだって」

「……そういう風とは、先ほどのような?」

青年のふにゃっとした顔で、毒気を抜かれた。
元々対してなかった怒りは完全に引っ込み、そう、青年の話を聞いてみる気になった。

挨拶としての言葉に、違う言い方?
そんなものあっただろうか。本来ならば、告げ方など一つしかない。

数えるまでもなく、私はそれを口にする。
別れ際には、今日を除いて会える残りの日数を口にするのだから。

「――あと126日は」

あとに続ける言葉は人によって少し差はある。
います、とか。存命してます、とか。
会えますよ、という気楽な言い方だってある。

これが別れ際の挨拶だ。私はあと126日。
青年は、あと何日だっただろうか。

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作者名:満月もなか | 作成日時:2017年7月24日 17時

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