吸血姫は桜の木の下に舞う

第23話「舞い降りた紅の花」 ページ25

少し前………



「追え！彼奴はポートマフィアの幹部だ！」

「殺せば後々有利になる！必ず仕留めろ！」



背後から聞こえる声にとある男は溜息を吐いた。
洒落た黒帽子を深く被り、物陰から様子を伺う。



「……あー、面倒くせぇ……」



西方の小競り合いの鎮圧を予定よりも早く終わらせ、久々にヨコハマに帰って来たと思ったらこのザマだ。
敵組織の構成員に見つかり、かといって今此処で返り討ちにするには場所が悪い。
大通りが近くて直ぐに公になってしまう。



「見つけたぞ！」

「………チッ」



そうこうしている間に敵に見つかってしまった。
男は舌打ちをしながらも走って逃走する。



『公になるかもしれねえが…さっさと片付けるか』



男は走るのを止め、彼等を迎へ撃つ為身構えた。
敵は既に此方に銃口を向けている。



「死ね………“重力遣いの中原中也”！」



そう云って敵が発砲しようとした、その時だった。



「あらあら，随分と楽しそうですね」



唐突に何処からか女の声が聞こえた。
だがそれを気を取られているのも束の間、銃口を向けていた敵の頭上に何かが降って来た。
当然その男はその“何か”の下敷きになる訳で。



「私も混ぜてくれませんか？」



降って来たのは美しい少女だった。
まるで大輪の薔薇のような真紅の髪、
同じ色の凛とした瞳、
青白い肌にそれに反した血色の良い唇、
そして細い体躯に丈の短いワンピースと白い襟巻を身に付けていた。



「手前、何も……ッ」

「はいはい貴方は黙ってて下さいね」



顔を上げようとした男を踏み付け、起き上がるのを阻止する。



「何者か知らないが死ね！女！」



他の連中が少女に銃を構える。
すぐさま止めようとしたが、それは必要無かった。
撃たれる前に彼女が男の懐に入り、顔目掛けて蹴りを入れたからだ。



『は、速ぇ……！』



たった一人の少女が銃で武装した男達を素手で倒していく。
それはさながら，優雅な舞のよう。
屈託の無い笑顔で敵を倒していく少女に，男_____中原中也は思わず目を奪われていた。



「！！」



だが一瞬で現実に引き戻された。
先刻彼女に下敷きにされた敵が彼女に銃口を向けていたからだ。
本人は目の前の敵に気を取られ，気付いていない。



「死ね……！」



男が呻いて銃を発砲した瞬間，



「重力操作」



彼女を引き寄せるように抱き締め、目の前の銃弾が音を立てて落ちた。

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