5口 ページ5
・
「…っA様」
一瞬、時が止まったかのように感じた。彼女の微笑む姿があまりにも儚く、風が吹けば消えてしまいそうな姿に、時間を忘れて見惚れていた。
手を伸ばしてしまいそうになったがそれを抑え、彼女の望み通りかぶき町へと案内する。
「…かぶき町ってキャバクラ、ホスト、遊郭しかないですが、いいんですか?」
「えぇ。江戸がどんな町か全て見たかったので」
そんななか2人歩いていると、憎き銀髪が目に入った。しかもその顔は赤くなっていて、眼鏡とチャイナに介抱されている。夕方から酒をかっくらってベロベロになっているようだ。
嫌な予感がして、A様の手を少し乱暴に引いて行こうとした瞬間「あー!!土方くんじゃーん!」と大声で話しかけられた。
「よォよォなにしてんのこんなとこでーっ!ひっく!あっれぇ?横の別嬪さんは?土方くんのオンナ?」
「……えっ!?」
「ちげーよ!そんな失礼なこと言うんじゃねェ!とにかくお前らに構ってやる暇はねェ。さっさと散りやがれ!」
「おいおいひでーよ!あの幼い日、2人で夢を語り合った仲じゃあねェか!」
「語ってねェ!はァ…こんなヤツらに構ってると時間の無駄です。A様、行きましょう」
俺は半ば強引にA様の手を取り、少し早足で歩いた。その間後ろからくすくすと笑い声が聞こえ、振り向いてみるとA様が肩を揺らして笑っていた。
そんなに笑われると思っていなかったので小っ恥ずかしくなり、照れ隠しに煙草を咥える。
「ふふっ、面白いですね、あの人。土方さんのお友達ですか?」
「…はァ!?あんな奴友達でもなんともありません。公務執行妨害で逮捕できるレベルの奴ですよ」
「へぇ…ふふ。いいですね、砕けた話し方で互いに話せる人がいるっていうのは」
…またその顔だ。
たびたび俺の知り合いとすれ違うととても悲しそうな切ない顔をして遠くを眺める。羨ましいと口々に呟いては、儚く笑う。
「…さて、そろそろ帰りましょうか。景政様は明日江戸に来られます。もう帰っておいた方がよろしいでしょう」
そんな彼女を見ないふりして、俺は尾張へと彼女を見送った。
とっても楽しかった。抜け出してみる価値があったと思う。おかげでたくさんの人にも出逢えたし、いい人にも巡り会えた。
電車に揺られながらそんなことを考えていると、ふとあの人の顔が蘇る。
箱入り娘で世の中の事はわからない。だけどこの気持ちに嘘偽りはないと感じていた。
・
68人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミーこ(プロフ) - さちさん» ありがとうございます☺️❤️🔥なにせ私が土方さん推しなものでして笑 (2022年11月6日 19時) (レス) id: 3ecbe7c0be (このIDを非表示/違反報告)
さち - 続きが気になります!土方さんいいですよね。 (2022年10月31日 17時) (レス) @page6 id: 0e3bc286c0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ミーこ | 作成日時:2022年10月10日 19時