王帝の姫は幸福を知らない。5【イナアレ】

兄妹と晩ご飯 ページ8

古めかしい木製のドアを通り抜け、細長い形のテーブルの側にある椅子に腰掛ける。想像していたよりも温かみのある食卓だな、なんて感想は言葉にしない。


私に続くように、春奈も向かい側に２つ並んだ席の１つに座った。彼女の隣にある空席は言わずもがな、まだ来ていない彼のものだろう。


……反射的に孤立した方の椅子に座ってしまったが、別にどうでもいいか。っていうか孤立した方の椅子って何だ。


まぁ隣に誰もいない方がリラックスできて良いかと思いつつ、深めに腰掛け直してぶらぶらと足を遊ばせる。大して面白い訳ではないが、単なる暇潰しだから問題ない。


行儀が悪いのは否めないけどな、と思っていれば先程通り抜けてきた扉が開き、残った人物を招き入れる。彼は少し焦った様子で、


「すまない、少し待たせたな」


星章学園の制服からシャツにスラックスにベストまで着て、もしかしたら制服より堅苦しい格好になってるんじゃなかろうか。ご飯食べるんだから汚れちゃ大変だろうに……


「ううん、大丈夫だよ？ 早く座ろう」


私が心底どうでもいい心配をしているのを他所(よそ)に、春奈は目を細めて兄を隣に招く。まさに理想の妹だ。


っていうか兄にだけタメ口って特別感凄くないか。羨まし………じゃなくて、仲良しで微笑ましい。微笑ましいのだ。


『ま、正直言って結構待った気もするけどね。っていうか今の、豪炎寺そっくりじゃない？』


ふっと笑みを浮かべて席に腰掛ける鬼道と目が合い、ついからかうような言葉を紡いでしまう。


でもあれだ、私にしては珍しく本心だけ言ってるからセーフだ。きっと恐らくもしかすると。


我ながら自己中すぎてドン引きそうになるような思考にピリオドを打ち、張り付けた笑みを浮かべながら相手の反応を待つ。


すると彼は拍子抜けしたような顔になって＿＿一瞬だけ顔をしかめて、すぐ元の表情に戻った。


「待たせたのはもう謝った。それと豪炎寺の口癖がうつっただけだ、最近会ったせいだろう」


『……ふーん。君達２人って意外に仲良しだよね、流石はシスコンビ』


そんな言い合い、というか即席コントを繰り広げている私達である。私としては事実を述べているだけなのだが、春奈にはウケているようだ。笑ってるし。


「妹思いと言ってくれ、あと春奈は笑いすぎだ」


「だ、だって面白くって……ごめんね？」

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