手のひら離して ページ10
何種類かの前菜にメイン料理、目にも楽しいデザートたち。それらはあっという間にお腹へと収まって、私達3人に溜め息を吐かせた。
とは言っても、もちろん不快感から来るようなものではない。よく“溜め息をつくと幸せが逃げる”と言うけれど、これじゃ寧ろ逆なんじゃないだろうか。
強いて言うなら、とても心に仕舞いきれないような幸せの量を抜いて調整するような。感じた幸せを見つめ直すような。
いや、でも結果的に幸せは逃げている事になるのだろうか。心の中には確かに残っているのだけど、だけれども抜けてはいるという事実がそこにある。
そもそも事実だという確証もないのに、こんな事を思うのはどうなんだろう。
……うん、どうでも良い思考で頭を満たすのはやめよう。物事にはタイミングがある、取り敢えず今は確実にその時じゃない。
私は今この時を幸せだと思っている、それが実感できれば十分じゃないか。きっとそうに違いない。
我ながら適当な結論を出しては、自らを納得させるように何回か頷く。今くらいはこの状況を楽しむ事に専念しようではないか、なんて思う。
どうせ明日になれば、また観察に次ぐ観察の繰り返しだ。
思考に没頭するだけでも人は満たされるのだな、と思っては伏せていた目を薄く開く。
慣れない料理を食べるのに少々手こずっていた春奈は、ちょうど兄のサポートを借りて食事を終えた所らしい。
彼女は満足げに頷いては食器に手を合わせ、お行儀よく挨拶をして顔を上げた。とても微笑ましい。
これ本格的なフルコース出したらどうなるんだろう、そんな意地悪をかき消しては澄まし顔の彼に話しかけてみる。
『さて、春奈も食べ終わったことだし。何かして遊んでみる?』
「……風呂が先じゃないか?」
何てこった、秒速で正論を返されてしまったぞ。確かにちゃっちゃとお風呂入っとけば行動の自由度は増すよな。
早々に出鼻挫かれたと思っていれば、待ってましたとばかりに春奈が身を乗り出す。
「あっ、じゃあ私達で一緒に入りましょうよ! 女の子同士、積もる話もありますから」
目を輝かせてそう提案する春奈だが、多分その目に兄は映ってすらいない。当然だけど。
__一瞬だけ。一瞬だけ、少し悲しくなった。
けれどそんなもの、今は本当にどうだっていい。寂しさも楽しさも苦しさも、大体は一過性なのだ。
だから、私は改めて。
この瞬間を、全力で楽しもうと思ったのだ。
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アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» ですが既に手放しかけていた粗末な文へ、こうして温かい言葉を掛けて下さった事 心から感謝しています。末筆ですが改めて、読んで頂きありがとうございました! (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» コメント有り難う御座います、反応が大変遅くなってしまい申し訳ございません。前の作品については仰る通りで、私自身の手で消去致しました。応援して頂いたところ本当に心苦しいのですが、恐らく今後これを更新する事はありません。 (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても楽しく読ませて頂きました!今後とも応援しています!頑張って下さい!(*´ω`*)(((後、前の作品が全て消えてるんですが、気のせいですかね?(´・ω・`)))) (2021年11月6日 10時) (レス) id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 月花さん» はい3コメおめでとありがと大好き…!!()そうそう弱気な吉良ヒ、(幼少期だもの←) コメントはいつだって超絶嬉しいよ…!!本当にありがとう、これからも宜しく! (2020年8月2日 22時) (レス) id: cbb6f528ce (このIDを非表示/違反報告)
月花(プロフ) - 今更感あるけど….シリーズ五本目!おめでとう〜!三コメをいただいていきま〜す(←) ヒロトの名前が出てきたとき、「えっヒロ…吉良ヒ…?…!?」でした、あるちゃんの小説大好きです、更新…無理なく頑張って下さい!!(以上、謎タイミングコメント野郎でした!←) (2020年7月30日 21時) (レス) id: 689878ceda (このIDを非表示/違反報告)
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