王帝の姫は幸福を知らない。5【イナアレ】

白き帳に包まれて ページ11

脱衣場で服を脱いで髪を纏め……というか言うことを聞かない髪と格闘しつつ、やっとの思いで括っていざ風呂場へ。


もうもうと立ち込める湯煙が晴れると、その全貌が目に飛び込んでくる。


……何だこの風呂は。


口をついて出そうになった言葉をなんとか抑え込み、改めてその内装を見つめ直してみる。ある意味では予想通りなのだけど、ここまで豪華だとは想定していなかった。


シャワーブースなんかは見慣れているけど、私を驚かせたのはその奥。大きすぎやしないか、という程の浴槽だ。


古い外国の映画でよくあるような猫足バスタブなんかじゃなくて、形からするとごくごく普通……なのだが、材質や大きさからして完全に異質である。


まず材質、皆さんお馴染み大理石である。しかも前述の通り浴槽はかなり大きく、雑な目測でも5メートルを越える程だ。


それを目の当たりにした直後こそ“いくら何でも浴槽の全部が大理石な訳では無いだろう”なんて軽視していたものの、それは浅はかな考えであった。


近づいてよくよく観察した所＿＿継ぎ目が見当たらないのだ。浴槽の中は入浴剤らしきものが入った湯に阻まれて見えないが、側面を見れば直ぐに分かる。


もしも大理石をタイル張りにしただけなら、よほど精巧に継ぎ合わせられていない限り痕跡が見えるはず。が、現状それは見当たらない。


つまり、この浴槽は大理石の塊を掘って造られた物の可能性がある……うっわ。金持ちはこんな所にも財を注ぎ込むのか。


まあ私の家、つまり御堂院家も富裕層には入る。が、たかが風呂にここまで趣向を凝らそうなど考えた事もなかった。


本気出すと風呂ってこうなるんだなぁ程度の生ぬるい感想をもて余していると、脱衣場に繋がるドアから春奈が入ってくる。


「お待たせしました〜……って、何ですこのお風呂場っ！」


入ってくるなり目を輝かせ、転倒もかくやという勢いで駆け寄ってくる彼女。危なっかしいのは相変わらずか、なんて思いつつ振り返った。


『うーん……財力の結晶、って感じだよね。冷めないうちに入りたいし、早いとこ体と頭洗っちゃおうか』


シャンプーだのリンスだのが完備されたシャワーブースを指差し、彼女が頷くのを確認しては歩を進める。


今まで温泉なんかもあまり行く機会がなかったし、誰かと一緒にお風呂なんて少し気恥ずかしいような気もするけど＿＿


可愛い後輩がそれを望むなら、まぁ良いかと思った。

未来永劫、その痕は消えない。→←手のひら離して

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