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「本当は…その…」
安「うん、」
正直に白状するしかないと思って話し始めると、
膝に乗せた私の手に章大君の手が重ねられた。
さっきとは違って大人しく真剣な感触だけど、
露出した太ももにもダイレクトに伝わる体温が少し照れる。
「…最近、少しずつ、バンドに戻りたいなって思うようになって」
安「…うん、」
「変わらずに活動を頑張ってる皆さんを見ると、
…私も一緒に参加したくなって、苦しくなるんです」
すぐ傍で聞いてくれている章大君の眼差しも、相槌も、
物凄く優しくて安心できて、
いとも簡単に本音を引き出していく。
まだ固まりきらない心の内を明かすのを怖がる私に。
ぎゅ、と重ねられた手に少し力が入って、
大丈夫だよ、と言われてるみたいで。
「…でも、まだ、戻るのは、自信が無いから…」
安「…それで、あんな不安げな目で見つめたん？」
「不安げ…」
自覚は無かったけど、きっとそうだったんだろう。
黙って頷けば、横から身体を寄せられ
ふわっと抱きしめられる。
…泣いてしまう夜にはいつもこうしてくれていたからか、
何かのスイッチが押されるようにして。
今日は泣いてなかったのに、何故か視界がぼやけてくる。
「…もう、だめです…」
安「なに、どした」
「章大君にこうされると…涙出てくる…」
安「…んー、何でやろなぁ」
あったかくて、甘やかすような声。
安「Aに素直になってほしい、って
俺が思ってんのが、通じるからかなぁ…」
「…そんな、普段は素直じゃないみたいな…」
安「ふふ、そんなことないけど、
自分からはなかなか来てくれへんから」
「…」
…正直に言うてくれてありがとうな、と
背中を優しくさすられる。
感謝すべきは、こっちの方なのに…。
勇気を出して少し腕を回して、
章大君の腰の辺り、服の裾をきゅ、と掴んでみる。
安「…！Aちゃん、」
「…章大君、いつもありがと、」
安「…あー、ほんまに…」
「ぐぇ、く、くるし…っ」
安「ええ子、めちゃめちゃええ子やなぁ…」
押しつぶされる勢いで、ぎゅうぎゅうに密着。
…苦しいけど、章大君の腕の中、どこか落ち着く。
安「…俺らは、いつでも待ってるから」
「…うん…」
安「…今日みたいに本当の気持ち、大事にしててな」
忘れた頃に、優しい香りが二人を包んだ。
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2022年5月5日 8時
