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『大会があって無理だと言うなら、終わってからやればいい』
「え…？」
『遅くはなるけど、
夏以降でも間に合わないことはないだろうしな。
…それで納得のいく就職先に決まるかは、難しい問題だが』
「…」
『とにかく、優勝できなかったら就職をするしか無いんだ。
それを考えて行動しなさい。
…今就活をしているなら、きちんと集中して続けるのが一番だ』
…多分、お父さんなりの最後の忠告だった。
私がどういう思いだとしても、
何をすべきかを伝えたかったんだろう。
私の返事を待つことは無く、さっさとお母さんに代わった。
『…Aのこと、心配してるだけだから…、
バンドのことはそんなに気にしなくていいよ』
「…」
『じゃあ…就活、頑張って』
うん、と何とか絞り出した小さな返事は聞こえたかどうか、
そのまま通話が途切れる。
「……はぁ…」
横「…A、寒いやろこんなとこおったら…」
「あ、侯隆君…」
電話を切った直後、侯隆君に声を掛けられる。
皆リビングにいて電話しにくかったから、
なるべく離れた玄関で座り込んでいたんだけど。
会話の内容に集中しすぎて気にならなかったけど、
確かに冷える。
横「…親と電話してたん？」
「……はい」
侯隆君が私の隣にしゃがむ。
…少し、聞こえちゃってたかな。
横「…なぁ、」
「ん…？」
横「…ひとりに、ならんとってな」
「…」
やけに不安げな声でそう言われて、一瞬理解が追いつかなかった。
ひとりに、って…今一人で玄関にいたこと？
…だけじゃ、無い気がする。
私が就活をしていること、親と話していること…
そこから何を感じ取ったのか。
スマホを握っていた手に、彼の手が重ねられる。
横「ほら…もうこんな冷えてる、」
「…」
横「はよこっち戻ろ」
そのままぎゅっと掴まれると、
立ち上がって一緒にリビングへと向かった。
その高い体温が私に「離れるな」とでも言うように
私の手に染み込んできて、
何を迷っているのかと自分を責めそうになる。
やっぱり、私の気持ちはここにある。
それだけがはっきりとしてしまって、また行動とズレていく。
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2022年5月5日 8時
