蛇口 (紫) ページ30
.
「それにしても…びっくりするじゃないですか」
村「いやーすまんすまん、カレンダーに書いてあったから」
休養に対しての事と、就活の事と、
色んな複雑な思いを抱えながら上の空でバイトをしていた時。
信五君は突然、そのバイト先である居酒屋に
当たり前のような顔してやって来て、
私のシフトが終わるタイミングを見計らって退店したのである。
確かに一時期はよく来ていたけど、
最近は今のお家に引っ越したこともあって
自然と利用することも無くなってたのに。
驚く私をよそに、
以前と変わらず普通にお客さんとしてお酒と料理を楽しんで。
こんな風に店から駅までの道を二人で歩くのも久しぶりだ。
「…そりゃ、スケジュールには書いてますけど」
あれは先月、まだ練習もライブも参加するつもりで
カレンダーにも予定を書き込んでいただけで。
まさか私がいる時間にわざわざ(？)来られるなんて…。
村「…あ、コンビニ寄る？」
「え？…あ、」
村「久々やろ？笑」
「スイーツ…！」
信五君に言われてから思い出す。
そうだ、バイトが終わって、
信五君に奢ってもらったスイーツを食べながら、公園で駄弁る。
彼が来た時はここまでがセットだ。
本当に久しぶりでちょっと懐かしさすら抱きながら
スイーツを選んでる時、
…もしかして、こうして二人で話す機会を
作りたかったのかもしれない、と何となく思った。
そういえば、このルーティンが始まり出した頃、
信五君はバリバリの就活生だった。
「…杏仁豆腐うんまぁ〜」
村「変わってへんなぁ」
「でもこれを求めてたんですよね？」
村「やかましわ」
買ってもらった杏仁豆腐を、公園のベンチで早速食べる。
横並びで座った信五君と、人気の無い夜の公園で
ゆったりとした時間の流れを感じる。
…そう、この感じ。
バイト終わりに甘いスイーツを口に運びながら、
この何でも話せそうな軽くて心地良い空気感が好きだった。
生温い風が公園内を吹き抜けて、
微かにアスファルトが湿ったような匂いがする。
「…雨の匂い？」
村「ん…？降りそうか？」
「えぇ…どうしよ、今日傘持ってきてない…」
村「大丈夫やろ」
「そうですかね…」
村「俺も持ってきてへんし」
「全然大丈夫じゃないですね」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 488人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：黒葡萄
| 作成日時：2022年5月5日 8時
