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錦「…お前、大丈夫か、」
「…」
錦「体調は、ほんまに平気やねんな？」
「…はい」
険しい表情で、私の両肩を掴む。
何だか切羽詰まったような空気感に戸惑いつつ、
私もそこはしっかりと頷くと、
錦「はぁ、…なら、ええけど」
少し落ち着いたように一呼吸つき、力が入っていた手を下ろす。
…家の中はまだ静かで、
他の人たちは帰って来ていないようだった。
錦「…体調やなかったら、どうしてん」
「…それは…、…」
錦「…急におらんくなるから、めっちゃ焦った」
「…」
どう答えようか口ごもって俯くと、
亮君は私の肩にかかる髪を後ろへと流した。
その手つきは柔らかいけれど、
耳に届く声色はどこか鋭く感じられて、私は口を閉ざしたまま。
錦「…なぁ、何かあるなら言うてくれよ」
斜め上から降ってくる、ストレートな言葉に胸を刺される。
錦「お前最近ずっとおかしいぞ」
「…」
錦「疲れっぱなしで何かと深刻な顔してるし、
全然笑わんようなったし、
歌ってる時もめちゃくちゃしんどそうな目して…。
この前やって夜中何か泣いてたやろ？…俺起きてて、
部屋の前通りかかったら章ちゃんの声して心配やってん」
皆やって何となく気付いてると思う、と続けて。
気になっていたことを全部ぶつけるような、
不満げな話し方だった。
錦「…別に無理に話せとは言わんけど、
今日みたいにバンドとして一緒に出れんくなるくらいやったら、
一人で抱えんなよ…」
苛立ちすら感じる、切なげな声に、
私も段々やるせない思いがイライラしてきて。
「…じゃあ、言ったらどうなるんですか…？」
錦「は…」
「私の歌は良くなるんですか？
スランプだって思ってたけど、本当にそうなの…？
どれだけ皆がフォローしたところで、
抜け出すどころか悪くなる一方だし…！」
錦「そういう話してんちゃうやろ！」
「もう怖いんです！…人前で、歌うの…」
錦「…！」
亮君が、一瞬、ハッとしたような顔をして。
もう一度、肩を掴んで目を見つめる。
錦「…しっかりしろよ、Aの歌が一番やねんぞ…！」
その瞳の光が、私には強すぎて。
「…もう、無理なんです、私が歌っても…
誰の心にも、響かない…」
弱々しく、言葉を落とした。
錦「…お前は、誰のために歌ってんねん…」
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作者名：黒葡萄
| 作成日時：2022年5月5日 8時
