囲われたミツと花【前編】

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「は？マジで言ってんの？」
『マジよ。大真面目。父さんと母さん、何ヶ国か旅したいの。だから、宜しく』
「は？絶対嫌だ！」
『なんでよ。可愛がってるじゃない』
「可愛いけどさ！それとこれは…話が別で、またホテルだったり連れてけばいいだろ！」
『今回は長期だし、そうはいかないの！いいじゃない。家にはみっくんが居てくれるんでしょ？』
「……な、」


それが、問題なんだよ。
例えそれが愛犬でも、宏光の視線をとられたくない。
俺以外に笑顔を向けてほしくない。
抱き締めて欲しくないし、撫でてほしくない。
その腕は、手は俺以外触れちゃダメなんだ。



『それぐらい親孝行しなさい！』
「…わかったよ」



叱咤されたら、従うしかない。
バレないようにペットホテル予約すればいいかなんて、承諾の意を返すと、『ホテルなんか予約したのが分かったらタダじゃ置かないからね！』なんて被せて言ってくる。こっちの考えなんてまるでお見通しというように。




…隔離しよう。余ってる部屋を、あんこ用にしよう。そうすれば、文句は言うまい。



こうして、実家の愛犬を一匹預かる事になった。



＊



「わー！犬だ」



何日かして、連れ帰った愛犬を紹介しながら、宏光に見せると、宏光は真ん丸い瞳を更に丸く輝かせて喜んでいた。
あんこは、俺が実家を離れてから飼いだしたから、宏光は初対面だった。



豆柴のあんこは、どこか宏光に似てる。
あんこをハグしてる宏光を可愛く思うけど、やっぱりモヤモヤと感じるのは、拭えない。


重症だよな。愛犬にまで嫉妬をするなんて。



あんこも満更でもないように、鼻をフガフガさせながら、尻尾を千切れるんじゃないかと思うぐらい振り頭をぐりぐり宏光に押さえつけてる。



…おい、そこ宏光の大切なトコだから！
俺だけの！



「あんこちゃんだね？宜しく！」
「わんっ」


口を大きく開けひとつ吠えた。
ハアハア真っ赤な舌を覗かせ、宏光の手の甲を舐めてる。



「バルコニーに放していいから。夜は一部屋あんこにあげるし。だから、絶対散歩はしちゃダメだよ」
「んー。そだね。外は怖いもんなー？あんこちゃん」
「わんっ！」



こんな可愛い子たちが散歩なんて、誘拐しろと言ってるもんだ。



宅配ボックスで届いていた食材を使い、簡単に夜飯を作り、テーブルの上に配膳した後、実家から預かった餌を皿に入れて差し出すと、一人と一匹同時に位置につく。


「あははっ！」


そんな光景を心から愛しく思った。

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