【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 9

三百五十二話　［甘えるな］ ページ6

死ぬつもりはない、だが、それくらいの覚悟でやらねば勝てない相手だと突きつけられた気がした。



「さっきまでイカれただの言ってたのに、何故？」



「…英雄を引きずり下ろすのに、無傷で済むわけねぇって、今更ながら気づいた」



「…！」



「そうだよな…爆弾抱えて体当たりするくらいの覚悟じゃねぇと、あの人は倒せない」



かつての仲間だった人に刃を向けるのは簡単なことでは無い。
だが、天秤にかかっているのは世界の平和なのだ。
覚悟がなくては、守りたいものも守れない。



「…わりぃ、ちょっとビビってた」



「…私も、ごめん」



「あといきなり掴みかかるのやめてくんねぇ？びっくりするわ」



「は？貴方が甘ったれたこと言ったからでしょ？」



「…あと、頼むから退いてくれ」



「…あ、ごめん…」



ヒートアップして馬乗りになるというかなり際どい体勢になったAは大人しく立原の上から退く。



「あー…心中…なんか響きがすごく嫌だ…」



「は？なんでだよ」



「…川に流れてるあの人と同類になった気がして…」



「川に流れてる？」



立原は一瞬、Aが何を云っているのかとおもった。そして頭がおかしくなったとも思った。
だが探偵社の人間であれば判る、実際に居るのだ。
川を流れて心中を連呼するお人が。



「いやこれは不可抗力であって心中とは違うし…」



「ほぼ心中だろ」



Aの脳内で「私とは心中しないのかい！？誰だいその男は！！」とヒステリックに叫ぶ太宰がふわふわ浮かんで消えた。



「…うん、まあ…死んだら心中だけど生き残れば英雄だ」



「…よし、作戦会議続けんぞ」



福地を奇襲する日に備え、何度も何度も作戦を練り直した。
必要なものを揃え、入念にチェックをし、たまに部屋の中で作戦内容の言い合いが起こったせいで隣人から「彼女さんと喧嘩？」と言われ、Aの存在を公にできない立原は「俺！一人で話すのが好きなんですよ！！」という爆弾発言をしたせいで隣人から引かれた。
隠れていたAはその爆弾発言を聞き、見事に笑いが止まらなくなった。








『って、余計なこと考えてないと意識飛びそう』



数日前のくだらない話を思い出しながら、遠のきそうになる意識を必死で手繰り寄せる。
フラつく足で地面を踏みしめ、脂汗の浮かんだ顔で立原を見つめた。


「《立原道造の異能を増幅させ、リミッターを解除する》」



もう言葉はいらない。
あとは戦うだけ。

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