【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 9

三百六十八話　［痛み］ ページ22

鼻につく生臭い血と、咽せ返るような硝煙の香り。
倒れた体と、喉から流れる血と広がる血溜まり。
真っ先に湧き上がってきたのは強い吐き気だった。



人を殺してしまったという、強い後悔。



「ッ、」



至近距離、相手が筒の中を覗き込んだ瞬間を見計らい、チェーン型の引き金を引けば、たった一発の弾丸が相手の口内に侵入し、喉を撃ち抜く。
それだけで人は死ぬ。



『あの瞬間しか無かった。あぁするしかなかった』



世界を狂わせる存在を、誰かが倒さなくてはならなかった。
その為に手を汚した。汚すしかなかった。
あれで良かった、そう何度も思うのに、



『それでも、相手はひとりの人間だった』



片方だけとなった目に焼き付いているのは、喉を撃ち抜かれた瞬間の福地の驚愕に染まった顔。
人が命を手放す刹那の瞬間。



「…ッ、」



血まみれになった足で立ち上がろうとするがうまく行かず、地面に倒れてしまう。



『痛い』



血が出るほど唇を噛み締め、地面に爪を立てる。
痛いのは生きているからだ。
死んだら、あの時福地に殺されていたら痛みなんて感じなかった。



「…痛い」



ポロッとこぼれた言葉に、つい驚いて口を覆う。
今自分はなんと言った？
泣くことも笑うこともできなかった自分が、子どものように「痛い」と口にした事実に驚いてしまう。



「はは、慥かに。ッ、いてぇな」



すると、乾いたような笑い声が聞こえた。
見ると、目から血を流し、全身の至る所を折られた立原が笑っていた。



「なにも見えねぇし、めちゃくちゃいてぇ」



「…うん、痛い」



「なんかお前、声変わった？」



「喉が、多分…潰れた」



「血ぃ吐いてたもんな。…目、大丈夫かよ」



「私よりそっちの方が重症だろう猟犬さん」



「うっせ、生きてるだけで万々歳だわ」



双方、なんとか這いずりながら近くに寄ることができた。
近くに行けばよく判ったが、立原の傷は相当だ。



「…見えねぇけど、殺したんだな？」



「…うん」



片方だけの目で見ても、福地は目を見開いたまま動かない。
瞳孔が開き、喉から血を流して死んでいる。
いや違う、Aが殺した。



「私…人を殺した」



顔をべっとりと汚す血が、現実を突きつける。



「同じようにならないって、偉そうに大口叩いたのに、結局このザマだ」



Aの震える唇が、その言葉を口にする。



「私は結局、お母さんと同じ、」



ゴッ



その瞬間、強烈な頭突きがお見舞いされた。

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