【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 9

三百四十九話　［心中予定］ ページ3

淡々とそう告げてやれば、福地はいよいよ「理解できません」といった顔になる。
横では立原が「おー、熱烈」と白々しいことを吐いている。



「探偵社を巻き込んで心中なんてごめんだ。
ただでさえ面倒をかけているのに、これ以上社内に爆弾を持ち込みたくないんでね」



Aは理解している。
自分の存在がいつ起爆するか分からない爆弾であると。
魔女の娘という肩書きだけで、十分破滅へと向かえる存在であると。



「私の命は、存在しているより無い方が喜ばれる」



「…」



自分の胸のあたりに手をやると、鼓動を刻む心臓があることが分かる。
どうやら世界はAのコレが動いているより、止まっている方が都合が良いらしい。



「魔女は、多くの人から恨まれていた。
罪も償わず、雪のように消えてしまったから、その恨みが私へと向かうのは当然のこと」



似ているから、血が繋がっているから、世界はAを消そうとする。
それだけの、たったそれだけの理由で。



「恨みも憎悪も受け入れる。それでも…」



足にまとわりつく憎悪の影も、
人々の責め立てる声も、
どうしようもない身の上も、全部受け入れる。



「理不尽な死まで受け入れるつもりはない」



「…立原と心中する覚悟で運命に抗いに来た、という事か？
立場も生い立ちも、何もかもが違う、他人に命を預け、共に死ぬと？」



彼女は云った、立原と心中をする予定だと。
福地が突くような言葉を口にすると、Aは…クスリと笑った。



「もちろん、死ぬつもりは無い。
それでも偽りの英雄を引きずり下ろすのであれば、それ相応の覚悟が必要になる」



「そして、俺は此奴を選んだ」



「私は彼を選んだ」



共に死ぬに相応しい相手を、相棒として選んだのだ。



「何もかもが違う？そう思っていればいい」



「アンタをそこから引きずり下ろす、その為に組んだんだからな」



立原道造と小泉Aが手を組むなど、魔人が事前に伝えてきた予定にも存在しなかった。
立原はAに恐怖を抱いていたし、Aは立原を気にも留めていなかった。
それなのに、



「くく、はは、はははっ！！」



福地は顔を覆って笑い出す。
まさかこんな展開が待ち受けていようとは。



「そうか、そうか！
魔女の娘に魂を売るか！そこまでして！！」



「魔女の娘じゃねぇよ」



「！」



その名で呼ぶな。



「此奴は、小泉A。…魔女の娘なんて名前じゃねぇ」



何も知らない奴が、その名前で呼ぶな。

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