【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 9

三百四十七話　［開幕］ ページ1

世界は転がり落ちるように破滅へと向かっていった。
吸血鬼の異能の感染が広がり、ヨコハマは混乱を極める。
そんな中、猟犬達は犯人が武装探偵社であるという、至極当然の意見を口にする。
だが、そんな意見を否定する者もまた、ここには存在していた。



「必ず真犯人が居ます！邪悪な黒幕が！」



探偵社がテロリストなんてあり得ない、もう一度捜査の許可を。
そう叫ぶのはポートマフィアに潜入していた捜査官である立原道造だった。
彼の訴えは鬼気迫るものがあったが、隊長である福地の返答はNoだった。
感染型の異能を食い止めるには立原の力が必要だ、そう語る口調は部下を正しく評価する上司の姿だった。



だが、それも全て偽り。



立原は探偵社が事件の真相について語った記録因子を探偵社擁護派である安井副総監に渡すことを提案した。
そうすることで探偵社の疑いを晴らせるかもしれないと伝えつつ、


「…判った、許可する」


そして福地はそれを受け入れた。
記録素子を自分が安井副総監に渡すと伝えながら、それを受け取る。
福地は考えるだろう、あとはこれを破壊すればいいだけだと。


「あ」


だから、立原は"予定通り"その言葉を口にした。



「ならせめて安井副総監には俺から声を掛けておきます！
隊長が素子を持って行くので待つように、と！」









「…予定通り、隊長が動いたぜ」


「…了解」









人気のない廃工場に、その異能者は隠されていた。
棺桶の中に閉じ込められた異能者の名前はブラム・ストーカー。
彼こそが一連の感染事件の異能者であり、黒幕の、福地桜痴の協力者だった。



「眷属を動かして、安井副総監を噛め」



英雄の顔をした福地は、淡々とブラムにそう告げた。
擁護派の主力が感染してしまえば探偵社に逆転の目はない。
もう二度と、探偵社は世間から、



「そういう事ですか」



彼ら以外誰もいないはずの空間に響く第三者の声。
その声の方向を向いた福地は目を見開き、同時に「何故、」と言葉を漏らした。



「やっぱ英雄のするこたぁ、俺には想像つかねぇわ」



そこには、どこか哀しい顔をした立原が立っていた。
彼は背中を預けている壁にチラリと目を向けると、



「なぁ、そう思うだろ」



そこにいる"彼女"に声をかけた。



「…あぁ、本当に、その通り」



「！」



物陰から現れたもう一人の第三者に、福地は更に目を見開く。



「魔女の、娘」



Aは、紫色の瞳で偽りの英雄を見据えていた。

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