【文スト】この世界と獣と魔女【BEAST】

果たすべきもの ページ39

あの日から人生は決して楽なものでは無かった。



辛く、苦しかったけれど、



全てはこの世界の為だった。




私があの人の代わりになって、この街を、世界を守る。



「仕方のないこと」



鏡に映る自分の顔は、数年経って母に更に似てきた。
顔立ちだけじゃない、笑い方も、仕草も、何もかも。
色んなことを学んだ。
愛想笑いの仕方、化粧の仕方、情報の引き出し方、一つ一つを学び、実行していった。
そう、人の殺し方も。



「例えこの手を血に染めようと、私はやるべきことがある」



初めて人を手にかけた日、吐き気が止まらず、何日も眠れなかった。
あの人なら、ポートマフィアのあの人ならもっと上手くやるのに。
耐えられなかった、慣れなかった、でもやるしか無かった。
警告をしてもヨコハマを狙う者を、薄汚い手で"本"を欲する者も、みんな。



『魔女、魔女だ…お前は魔女だ！！』



いつしか、そう呼ばれるようになった。
ヨコハマには魔女がいる、そう噂されるようになった。



「魔女と、呼ばれようとも」



邪魔者は皆排除した。
時に名前を、見た目を、素性を変えて侵入し、
毒を盛ったり異能で自分自身を殺させたり、建物ごと吹き飛ばしたこともあった。
この手はもうどす黒い赤に染められている。



「後悔なんてしていない、私が選んだ答えだから」



でも、その為に犠牲にしてきた者達のことは決して忘れない。
手にかけた者、例えどんな極悪者でも覚えている。
私を恨め、憎め、好きなだけ呪ってくれ。



「罪も、罰も、全て受け入れるから」


鏡に映る自分の顔は、笑っている。
笑顔でいれば強くなれる、そんな気がしたから。
大丈夫、私は大丈夫だから。



『無理をして笑わなくていいんだ』



なのに、どうして今更こんなこと思い出すの。
あの日の父の言葉が聞こえる。



『誰かになろうとなんてしなくていい。
お前はお前だ、そのままでいいんだ』



「…ごめんなさい、お父さん」



鏡に映る女が、悲しげに笑った。



「でも、私は大丈夫ですよ」



例えこの手を汚そうとも、茨の道を歩こうとも。



「もうすぐ、全て終わりますから」



Aは笑う、全てを隠して。
鏡の前から立ち上がり、何もない殺風景な部屋を後にする。



「この四年間が、漸く報われる」



そう思えば少しだけ楽になれる。
そんな気がした。
あと、ほんの少しの辛抱だから。
それまで嘘をつくのを許してください。

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