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号哭 ページ33

嗚呼、嗚呼、嗚呼、すべて、思い出した。
肌が粟立ち、地面が揺れるような感覚に陥る。
体が震える、頭がガンガンする。



ー私は、残酷な人間だー



あの人に呪いをかけておきながら、忘れた。
すべて忘れて、挙げ句の果てにはあの人を拒絶した。



「あ、ああ、あ…」



待っていてくれたかもしれないのに、私は。
私という人間は全て手遅れになって初めて自分の罪に気づく。



「まって」



落ちる、あの人が。
酷い呪いをかけた、全てを背負ったあの人が。
羽をちぎられた鳥のように、真っ逆さまに落ちていく。



ー待ってよー



傷だらけの足で地面を蹴る。



ーねえ待ってよー



周囲の音が聞こえなくなる。



ーまだ私、謝れてないのー



忘れてごめんなさいって、思い出しましたって。



ーまだ、なにも恩を返せてないのー



この世界での恩も、かつての世界での恩も何も。
あの人に救われた恩を返せてない。



ー大切な人なのー



手を伸ばす、あの人に届くように。



ーやめて、嫌だー



これ以上、大切な人を奪わないで。
悪いのはすべて私、私でいいから。
神様、私はどうなっても良いから。



ー行かないでー



「太宰さん!!」


あの人だけは、どうか。



あらん限りの声で叫んだ。
逆さまになったあの人と目が合う。
一瞬驚いた顔をしたあと、



笑っていた。



唇が弧を描く。
あの人は、優しい笑みを浮かべて笑っていた。
まるで安心したように、すべての荷が降りたように。
微笑むあの人の顔はどこまでも穏やかだった。



「_____」



彼の唇がなにかの言葉をかたどる。



「________」



悲しげに彼は、笑っていた。



「太宰さん!!」



私が伸ばした手は宙を掴んだ。



最後に彼の目に映ったのは、届かない手を伸ばす莫迦な私の姿。



その瞬間、なにかが落ちる音と同時に、視界に赤い花が咲いた。
椿のような赤が頬に飛んだ。
温かい液体が頬を伝って地面に落ちる。



あの日と同じだった。



父が死んだ日と同じ、心に亀裂が入る音がする。



夕焼けに染まった石畳を、赤が侵食していく。



喉が痛かった。



呼吸ができなかった。



誰かの叫び声が遠くで聞こえた。



あまりに喉が激しく痛むので気がついた。



叫んでいるのは、私だった。



「あああああああああああああああぁぁっ!!」

贖罪→←あの日の約束という名の呪い



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ゆんこ(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました…3周くらいしても毎回泣いてしまいます、! (9月11日 0時) (レス) @page50 id: ea003ef446 (このIDを非表示/違反報告)
蒼真 - ほんとにすごいです…何回も読み返しています…その度に泣いてますよ…ほんとに天才だと思います。いやこれまじでアニメ化して欲しい。小泉ちゃん大好きです!!!! (8月19日 15時) (レス) @page50 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 本当に久しぶりに物語を読んで泣きました!すごく心に響いて毎度毎度わかっているのに泣いてしまいます。この物語を描いてくださってありがとうございます! (8月14日 15時) (レス) @page50 id: d710d605b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - 1年ほど前からずっと本編も番外編もBRASTも読み返しています🥹一つ一つの表現が素晴らしすぎて、同じく小説を書いているのですが勉強させてもらってます。ずっと応援し続けます! (2022年10月27日 12時) (レス) id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - 本編、番外編を見てから来ました。二人のやりとりが本当に儚くもあり、切なくもあって、、本当に涙無しでは読めないくらい感動しました。素敵な作品に出会えて本当に良かったです!このような素敵な作品をありがとうございました。 (2021年9月21日 20時) (レス) @page50 id: df8a2b67ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年11月9日 21時

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