【文スト】この世界と獣と魔女【BEAST】

出鱈目な攻撃 ページ20

暗闇の中響く、銃声。
異空間から発砲された銃弾が部屋の中を蹂躙し、
壁や物に着弾する前に異空間に吸い込まれる。
そして再び、その攻撃が繰り返されるのだ。



「ッ、出鱈目な攻撃を…！」



銃弾が飛び交う中、Aは一つのバルブを緩める。
銃口が何処にあるか判らないから、音だけで弾の方向と位置を確認するしか無い。
発砲音をさせているのは、この莫迦みたいな攻撃をしている犯人らしいが、
どう考えても相手を弄んでいるようにしか感じない。



ヒュン！



「ッ、う…」



飛んできた弾の一つが左肩を掠める。
痛みをぐっと堪え、次のバルブを緩めていく。
こんな出鱈目な攻撃だと知っていたら、話には乗らなかったのに。



『彼奴らが部屋に入ってきたら攻撃を開始すると云っておった。
儂がやるわけでは無い、教え子のようなものがお前に手を貸す』



『…二つ、お願いがあります。
銃などの火器は使わないように、あと、壁などにも当てないように。
…それと、出来れば殺さないように』



『…まあ、彼奴次第じゃのう。あぁ、それと』



『…？』



『油断してはならぬ。
彼奴の攻撃には、敵味方も関係ないからのう』



飛び交う銃弾の中、先程の夏目の言葉を痛いほど理解する。
敵も味方も関係ない、無差別、その言葉が似合う攻撃だ。



『しかも方向も弾数も滅茶苦茶だから予測が出来ない！
下手に動けば骸になるのは目に見えている！』



この銃弾の中、ポートマフィアの刺客たちは経験と実力で避けているようだが、
自分は油断したら体が蜂の巣になるのはほぼ確定している。



『夏目さんは何処かへ行ってしまったし、
この銃弾の中では本来の目的も満足に果たせない！！』



「…わざわざ発砲音で位置を教えているというのに、
随分苦戦しているようですね」



その頃、街を一望できるビルの屋上から足をぶら下げていた少女は、
"先生"に渡されたインカム越しに、廃工場内の様子を聞きながらため息をついた。



「退屈しのぎのお手伝いでしたが…盤上でただ右往左往するだけとは」



自分によく似た少女なら、何か面白いことでも起こると思ったのに残念。
真っ赤な林檎を一つ、異能空間から取り出す。



「出鱈目な攻撃なんて、私がする筈ないでしょう？」



赤い唇が、真っ赤な林檎にキスをした。

規則性とは→←盤上で踊りましょう

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す