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父の言葉と子ども達 ページ43

三日目、Aは幸介に戦闘訓練をする為に出て行った芥川の代わりに子供達を見ていた。
だが、流石に全員を相手に遊ぶことはできないので今は部屋で勉強を見ている。



「お姉ちゃん…」



授業参観に参加してから話しかけてくれるようになった女の子、咲楽が黒い制服の袖を引っ張った。



「これわかんない…」



咲楽が指を指すのは、学校の算数の宿題。
頑張って解こうとしたのだろうが、無理だったようだ。
Aは咲楽の隣に座り、鉛筆を持つ。



「この式はこの考え方じゃなくて、こうやって…」



小学校のものなら問題なく教えられる。
それに、自分には一応学がある、それなりに上の学年でも可能だろう。
数分説明すると、咲楽は判ったのか鉛筆を動かし始めた。



「解けた!ありがとう!!」



「…うん」



屈託のない笑顔から、そっと目を逸らす。
自分は咲楽ぐらいの年の時、こんな笑顔が出来ただろうか。
こんなに無邪気な子供だっただろうか。



「お姉ちゃん?」



不安そうな声で咲楽がAを見つめる。
怖がっているかもしれない、咄嗟にAは作り笑顔を浮かべようとした時、



「み、見て!」



咲楽が頬を膨らませて顔を手で引っ張った。
変顔、と呼ばれるであろうものに他の子供達は笑い出す。
Aも少しおかしくなって、クスリと笑った。



「お姉ちゃん笑った!」



「あ…」



この子は自分を笑わせたかったのだと、漸く気づく。
子供は正直で鋭い、だから笑えないAを笑わせようとしたのだろう。



『無理をして笑わなくていいんだ』



ふと思い出すのは、幼い日の父の言葉。
学校に馴染めなくてそれでも父を心配させたく無くて、
亡くなった母の写真を真似て笑顔を作った時。
父は酷く悲しそうな顔で頭を撫でて、そう云っていた。



『誰かになろうとなんてしなくていい。
お前はお前だ、そのままでいいんだ』



そうだ、これでいいんだ。
これが私、小泉Aと云う人間なのだから。
気が強くて愛想が無くて頭が固いのが私なんだ。



「…他に判らないところある?」



「えっと…俺ここ判んない」



「あの、僕も」



おずおずと宿題を見せる子供達。
一つ一つを丁寧に教える。
父がそうやってくれたように。



『私は私のままでいいのだから』



小さな子達の相手をするAの顔は、珍しく穏やかなものだった。

何が似ているのか→←繋いだ手はいつまでも



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もこすけ(プロフ) - ちょこれーとさん» コメントありがとうございます。続編が出ましたので、そちらも宜しくお願いします。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年11月9日 21時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこれーと(プロフ) - 今日めっちゃ更新多くて嬉しいです!!! (2019年11月9日 20時) (レス) id: adc186f0a4 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - azukiさん» コメントありがとうございます。一回目、そして二回目は…。今後の展開にご期待ください。読んでくださりありがとうございました。 (2019年11月4日 10時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
azuki(プロフ) - 本当の笑顔…今回が一回目で、二回目は……あー!この後の展開が楽しみすぎます!これからも頑張ってください! (2019年11月4日 8時) (レス) id: 2de50b2480 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - にゃんこさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。そんな風に言ってもらえて嬉しいです。今後も頑張る力が出ました。これからも応援よろしくお願いします。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年10月14日 18時

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