【文スト】この世界と獣と白雪姫【BEAST】

運命か、それとも ページ37

洒落た黒い帽子の下からのぞく赤茶色の柔らかな髪。
整った甘い容貌の中、青い瞳が印象的な青年だった。



「怪我してねぇか？」



ニコリと快活に笑うその姿は、まさに好青年と云ったもの。
差し出された手を素直に握り、立ち上がる。



『この人、小柄なのに腕力がある』



立ち上がる際、引き上げてもらったのだが、かなり力が強い。
腰に手を添えられ、普段なら投げ飛ばしているがなんとか耐える。
自分は女の中でも背が高い方に入るが、この男性は160cm前後だろうか。
小柄だが、その腕の力はかなりのものだった。



「此方こそすみません、お怪我は？」



「あぁ、心配いらねぇよ」



他人にも愛想が良い人だ。
無愛想な自分とは大違い。



「悪かったな、ぶつかって」



差し出された手を、そっと握り返す。



「こちらこそ」



男の手と比べ、Aの手は随分細く、小さい。
力だってかなり違うだろう。



「じゃあな」



そう云って立ち去る青年。
ペコリとお辞儀をして帰ろうと、彼とすれ違った瞬間だった。



シャラ…



金属がこすれる、微かな音。
小さなその音は、Aの思考を簡単に真っ白にさせた。



『この音ッ…！！』



この音は聞き覚えがある。
数刻前の、現場映像。
監視カメラに入っていた微かな物音。



『そんなまさか』



足が動かない。
それでも思考は回る。



『あの人の帽子にある金属の飾りの音だ』



何故それが監視カメラに入っていたのか。
答えは簡単。



『この人が、犯人だ、重力を操る異能者だ』



カタカタと腕が震える。
犯人が接触してきた、現場を盗聴されていたんだ。



『どうする？このまま切り抜けるには…』



背中に感じる視線にじっと息を詰め、そして振り向く。



「すみません、あの」



「…なんだ？」



貴方がその気なら、こちらにも考えがある。
Aは青年に近づき、その頬に手を伸ばした。



「血が」



「！！」



青年の纏う空気が変わる。
柔らかなハンカチで頬を撫で、Aは彼をじっと見つめた。



「頬に少しついていますよ」



今の反応で貴方が犯人だと判った、顔を覚えた。



「そのハンカチ、差し上げますね。
"お怪我をなさっているようですから"」



ハンカチを押し付け、そのままお辞儀をして立ち去る。
逃げるように遠ざかる背中を、青年はじっとみていた。

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