名前のない関係 ページ31
カフェから帰ると、すっかり辺りは暗くなってしまっていた。
早足で社員寮に帰り、部屋の鍵を開ける。
開けた瞬間、今までの仄かな胸の温もりは消えた。
『やっぱり、この部屋の静けさは好きじゃない』
ガランとした部屋、誰もいないのが当たり前なのになんだか気にくわない。
さっきまで津島と他愛もない話をして楽しかったはずなのに。
「…」
部屋に入り、電気をつける。
着ていた制服を脱いで部屋着になろうとした時、机の上に置かれた書類の束を見つけた。
その瞬間、Aは書類を掴み、部屋から出て隣室の扉を拳で叩いた。
「勝手に部屋に入るなって云った筈だ芥川！！」
同期であり隣人でもある芥川龍之介は、書類事務が苦手だ。
だからなのか、比較的それが得意であるAに押し付けてくる。
しかも、最近は不法侵入で部屋に仕事を置いて行くのだ。
扉を開けて、不機嫌な顔の芥川が出てくる。
「訪ねたが居なかった貴様が悪い」
「出掛けてたんだ、次勝手に入ったら羅生門で簀巻きにしてやるから」
「ふん、随分ご機嫌で出て行っていたな。
織田先輩が『恋人でも出来たようだが知り合いらしい』と云っていたのは事実らしい。
貴様が恋愛にうつつを抜かすとは」
気づいたら芥川の胸ぐらを掴んでいた。
「おい、あまり戯れるなよ」
ゾッとするほど低い、女の声だった。
細く白い手が強い力で芥川の胸ぐらを掴む。
前髪からのぞく紫の目に激情の色が浮かんでいた。
「私と彼の人はそんな関係じゃない」
血が通わなくなり、指先が白くなるほど服を握りしめる。
「そんな安い三流小説みたいに私達の関係を揶揄するな」
いつもとは比べものにならないくらいの怒りだった。
普段から喧嘩をしている芥川でも、その憤怒に驚いていた。
「ならば、なんだ？」
「…は？」
「ならばその関係の名はなんだ？」
芥川の言葉に、Aの手から力が抜ける。
「それは…」
他人では無い、だって名前を呼んで話をする。
友達では無い、だって二人の間にあるのは友情じゃ無い。
恋人では無い、だって恋心なんて知らない。
じゃあ、それなら、
「…知らない」
もしも津島と同じ職場なら先輩だっただろう。
でも、
「名前なんて、無い、あるわけ無い」
ただ同じカフェで話す関係は、名前をつけるほど上等なものでは無かった。
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もこすけ(プロフ) - ちょこれーとさん» コメントありがとうございます。続編が出ましたので、そちらも宜しくお願いします。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年11月9日 21時) (
レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこれーと(プロフ) - 今日めっちゃ更新多くて嬉しいです！！！ (2019年11月9日 20時) (レス) id: adc186f0a4 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - azukiさん» コメントありがとうございます。一回目、そして二回目は…。今後の展開にご期待ください。読んでくださりありがとうございました。 (2019年11月4日 10時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
azuki(プロフ) - 本当の笑顔…今回が一回目で、二回目は……あー！この後の展開が楽しみすぎます！これからも頑張ってください！ (2019年11月4日 8時) (レス) id: 2de50b2480 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - にゃんこさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。そんな風に言ってもらえて嬉しいです。今後も頑張る力が出ました。これからも応援よろしくお願いします。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もこすけ
| 作成日時：2019年10月14日 18時
