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重力を感じさせない身軽さで空からふわりと降りてきた中也は、
何処か浮世離れしていて、同時に彼が表の人間とは思わせなかった。






「手前一人か、探偵社はこんな時間に女ひとり出歩かせんのか?」







「…ある事件の捜査です。連れとはぐれたんです」







Aは中也から一定の距離をとる。
ふわりと感じる甘い香り。
後ろに回した手をぐっと握り締める。







「事件?…まさか、吸血鬼事件のことか?」







「知ってるんですか?」







「あぁ、"彼奴はやりすぎた"からな」







その言葉で、全てを理解する。
吸血鬼事件の犯人は、マフィアのテリトリーを荒らした。
その報いを受ける事になるだろう、と。







「つーかさっきから手前なんで顔背けて…」







その瞬間、中也は目を見開いた。
そして、Aの手をつかむ。







「手前、なんだその目」







「ッ、離してください!」








ぶわりと強くなる甘い香りに、手を振り払おうとする。
だが、力の強い彼に敵うわけも無く、更に強く掴まれる。







「目だよ、目」







「…め?」







「いつもと、色が違う」







いつものAは、日本人としては非常に珍しい紫色の瞳をしていた。
上等な紫水晶のような、深い色の瞳だった。
しかし今はどうだろう。







「月みてぇな、金色になってる」







紫色の瞳は、月の下で金色に輝いていた。
とても美しく、そして人間離れしていた。







「どうなってんだこれ、しかも顔もいつもより白いし、なんか…」







中也がぐっと顔を近づける。
蠱惑的なまでの甘い香りが強くなる。
クラクラするほど甘い、太宰とは別の甘さ。
太宰が上質な砂糖菓子なら、中也は高級な果物のような香りだった。







『やばい、クラクラする』







吸血鬼としての体が、血を欲している。
獣のような本能にグッと唇を噛む。







『やめろ、血なんて欲しくない、そんなの化物だ。
でも、甘い匂いがしてクラクラする…』








ゴクリと唾を飲み、ハァッと息を吐く。
口を押さえ、中也から顔を背けた。







「なぁ、A」







突然耳元で囁かれた中也の低い声に、ゾワっと鳥肌が立つ。







「こっち向けよ」






顎を掴まれて強引に目線を合わせられ、見えた彼の表情は。







「いいぜ?噛み付いても」







チョーカーを外して首元をさらしながら、獣が獲物を見つけたような、妖艶な笑みだった。

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もこすけ(プロフ) - あっきーさん» 嬉しいコメントありがとうございます。人狼ゲーム、書いていても楽しかったです。考えるのはなかなか大変でしたが、喜んでいただけて良かったです。これからも応援よろしくお願いします。 (2019年11月26日 23時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
あっきー - 人狼シリーズ大好きです!本当に天才だと思います!!これからも楽しみにしています! (2019年11月25日 17時) (レス) id: d54700ef05 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - そー氏。さん» ご質問ありがとうございました。本当ですね、たった今気づきました。ありがとうございます。これからもこの作品を、よろしくお願いします。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
そー氏。(プロフ) - 返答ありがとうございました。いつもこの作品応援しています。ちなみにタイトルが「この十六」になってますよ「その十六」じゃありませんか? (2019年11月3日 9時) (レス) id: 15750ac93c (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - そー氏。さん» ご質問ありがとうございます。小泉は、普段は髪で隠れて見えませんが、首筋にホクロがあります。基本、見えるところにはありません。ちなみに母親の雪も同じです。 (2019年11月3日 9時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年8月17日 20時

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