検索窓
今日:9 hit、昨日:24 hit、合計:393,804 hit

二百八十三話 [天才と秀才と凡人] ページ35

自分が死ぬかもしれない、だが人はいずれ死ぬ。
それなら今を精一杯生きて、悔いのないように死ぬだけ。



「莫迦にすんな、元からそんなの承知の上で異能を使ってたんだ」



「ッ」



「母のことだって、何が出てこようと受け入れる。
…それにしても、笑わせてくれる」



細い手に限界まで力がこもり、シグマの血流を圧迫した。



「お前達の仲間になる…はっ」



これも全て、あの魔人の手引きなのだろう。
この世で一番相手にしたくない、それでも絶対に許さない、逃したくない相手。



ーお前の手になんて、堕ちてやるかー



「死んでもごめんだ」



地獄の底まで追いかけて、玉座で微笑むお前を必ず地に落としてやる。



「あの男に伝えろ…『私が、お前をこの手で下してやる』と」



それは一種の執着だった。
許さない、絶対に逃さないという呪い。
ゾッとした、彼女は恐らく己が死のうとあの魔人を逃がさないだろう。



「…天才は覚悟から違うと云うのか…?」



シグマは、何処か悲しげな色を浮かべた声でそう呟く。



「その若さでそんな覚悟が出来る…心底羨ましい。
強い異能と恵まれた才能…お前は、生まれた時から特別なのだろう」



シグマとAの視線が交わる。



「私は、お前達のような才能は持っていない。
ただの凡人…良くて秀才と呼ばれる程度だ」



眠る時間を削り、精神を磨耗させてこのカジノを守っているシグマの、悲痛な心の声だった。



「お前達には判らないだろう、何故私がここまで必死になるか。
天才には凡人の考えなど理解できる筈も無い」



シグマの、反対の手には銃。
少女に気づかれぬように引き金に指をかける。



「だが」



天才に勝つ為に、凡人は悪魔にもなれる。
シグマの反対の手が、Aに銃口を向ける、



「理解させてやる事はできる」



まさにその瞬間。



「私は天才なんかじゃない」



隠していた感情が溢れた。
Aの紫の瞳が、悲しげにシグマを見つめる。



「なにか、勘違いをしているようだな」



自虐するように、Aはフッと笑う。



「私は、"彼ら"とは違う、単なる凡人。
貴方の云う通り、才能はあるかもしれない、異能も。
でも…私は天才達とは違う」



昔から、一度見たものはなんでも記憶できた。
頭の回転は速かった、でも。



「私は」



気づいていた。
自分は太宰や魔人の領域に行かないこと、届かないこと。



「秀才止まりの凡人なんだよ」



シグマと、同じだということ。

二百八十四話 [所詮その程度]→←二百八十二話 [辿ってしまう運命]



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (641 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
3222人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス&良いお年を!! (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:もこすけ | 作成日時:2019年5月18日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。