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革靴が地面を叩く音と共に聞こえる、愉しそうに相手を追い詰める声。
物陰から声の方向を見ると、部下を引き連れた太宰がそこには居た。






「いるのは判ってるんだから、早く出てきた方が身のためだよ」






まるで天気予報でも話すような声だが、出て行けば無事では済まないことは明白だった。
敦と鏡花の口を押さえたまま、呼吸を消すように息を止める。







「それとも、試しに撃ってみようかな」







ある時、聞いたことがあった。
太宰治の敵の不幸は、敵が太宰治であるということ。
聞いた当初は莫迦らしいと思ったが、その通りだと今思い直した。







『確かに、あれは敵に回したくないな』







敦は真っ青になり、鏡花すらカタカタと震えている。
Aだって、怖くないなんて云えなかった。







『でも今は、やり過ごさないと』







ぎゅっと唇を噛む。
その瞬間、三人が隠れている木箱が音を立てて壊れた。







「さ、出てきなさい」








躊躇いもなく撃たれた。
次は本当に狙う気なのだろう。







『…上等だ』







狩られるだけの獲物になってやるか。
Aは真っ赤な唇を強引に歪め、黒を睨んだ。







「…はぁ、隠れんぼというのも退屈だね」







逃げた三人がここに居るのは判っていた。
太宰の予想では、あの少女だけでなく他の二人も異能者なのだろう。
だとしたら下手に引きずりだせば怪我をするのはこちらだ。







「まあ、私が触れればいいか」







どちらにせよ、自分は触れて仕舞えば相手は凡人になる。
早々にそう結論づけ、太宰は彼女らを探そうと足を踏み入れる。
その時、音楽が聴こえた。
携帯の、着信音だった。






「…これでは探すまでもないね」







賢そうだと思っていたが、案外そうでもないらしい。
太宰はクスクス笑いながら、ゆっくりと音の方へと近づく。







「みっーけ………おや」







ひょいっと顔を覗かせた場所には…誰もいなかった。
その代わり、着信を知らせる携帯だけが残されていた。







「ふぅん…罠か」








ご丁寧に音が鳴るように設定され、誘き出された。
携帯を拾うと笑いがこみ上げてくる。







「この隙に逃げるとは…鬼ごっこの方が得意らしい」







捕まるだけの獲物にはならない。
今頃あの少女は見事に罠に嵌った自分達を嗤っているだろう。







「さて…どうしようかな」






困惑する部下達とは反対に、太宰は心底愉しそうに笑った。

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もこすけ(プロフ) - あさん» ご指摘ありがとうございます。その通りでございます。直しておきます。ありがとうございました。 (2021年11月8日 17時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
- すみません、「あの娘は誰の子?」の小雪ちゃんのセリフで「私は過去から来たんだよ」と言っていますが「未来」の間違いではないでしょうか私の勘違いや解釈違いであったら申し訳ありません (2021年11月7日 17時) (レス) @page32 id: b7271b87d8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ワンコソバさん» 折角のお話、申し訳ありませんでした。応援のお言葉、ありがとうございます。これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。 (2019年5月5日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ワンコソバ(プロフ) - そうでしたか…。残念ですが、それからのもこすけさんが書く作品を楽しみにしてます!頑張ってください!(^○^) (2019年5月4日 20時) (レス) id: c31389e4fc (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ワンコソバさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。そういった応援はとても嬉しいです。リクエストなのですが、現在締め切っております。他作品とのコラボも、基本的にご本人様からのリクエストのみ受け付ける形となっています。折角のお話なのに、申し訳ありません。 (2019年5月4日 18時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年4月6日 19時

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