【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ45

あからさまにこちらを見下すような笑いを見せたAに、福地達も動く。
目の前で獲物を取られるのは気分が悪い。







「…あの人達、やり方エグくないですか？」








あろうことかターゲットの二人が離れた時に同時に接触をし、
あれよあれよという間に太宰は女を、Aは男を自分のペースに乗せていた。






「うわ…」







「なんだ？」








「彼女、今ボソッと『早く吐けよ…』と毒づきました」







美しく微笑む下でさぞや色々溜め込んでいるのだろう。
事実、男の手が触れた瞬間、心拍数が跳ね上がり苛立ったようにヒールの音が高くなる。







「相手の男が哀れに見えてきますね…」







「そうだな」







「…貴方なんでちゃっかりこっちについて来てるんですか？」







「副長があっち行けって」








あの人、隊長と二人っきりになろうとしている、条野はため息をついた。
何が悲しくて地獄のような食べ合わせをする男と休日のショッピングモールで共に歩かねばならないのだ。






「条野、ソフトクリームを買わないか」








「あぁもう死ねばいいのに」








条野が頭を掻き毟りそうになった時、男が強引にAの手を引いて外に出た。
二人も後を追おうとするが、扉が閉まる一瞬、Aの笑い声が聞こえたのは気のせいだと思って。







「いだだだだだだだ！！ギブギブギブギブ！！」








「ほら吐け」








気のせいじゃなかった。
人気のない駐車場に響くのは、男の悲鳴と女の無情な声。
男が縛り上げられ、Aによって関節技を決められている。
条野は思った、ここは地獄かと。







「今までのこと全部吐け、洗いざらい、ほら、早く」







「いだだだだ！！吐く、吐くからぁ！！」








「喚くな、五月蝿い」







叫ばせておいてそりゃあないだろうと条野は天を仰ぐ。







「いーち、にーい、さーん」







「鐵腸さんカウント取らないでください！！」







その後、洗いざらい吐かされた男は警察に連れていかれ、太宰も女から話を聞き出したらしい。






「迷い犬だからって甘く見るなよ、猟犬さん」








去り際、べーっと舌を出して強気に云ったAは機嫌が悪そうに太宰と帰っていった。
その際、太宰がAの肩に触れてこちらを見て不敵にクスリと笑ったのは気のせいでは無いだろうと条野は記憶した。

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