【文スト】この世界と番外編 その九

あの子誰の子 ［瀬那様リクエスト］ ページ29

ある日のヨコハマ。
柔らかな日差しが差し込む表通り…から少し外れた人気の少ないカフェ。
知る人ぞ知る穴場のカフェで、彼は一人寛いでいた。






「珈琲のお代わりはいかがですか？」






「ん…あぁ、頼む」







店員は珈琲を注ぎ、ぺこりとお辞儀をすると店の方に戻った。
明らかにカタギではない自分になにも聞かない店員に好印象を抱く。







『悪くねぇな…ここ』







この街の闇を支配するポートマフィアの幹部、中原中也は帽子を目深に被り、珈琲をすする。
すると、ゆっくりとした足音と気配を感じる。
職業柄、それが一般人でないことは直ぐに判った。







「…何の用だ」








帽子の影から、自分の前で立ち止まる人物の姿を見る。






「連れとはぐれてしまって。相席してもよろしいですか？」






透き通るような、それでいて少年らしさを感じさせる声だった。
その声が一瞬、恋い焦がれる女の声に聞こえた気がした。
襲撃者にしては若い、少年だった。
彼はニコリと微笑むと、中也の返答も待たずに向かいの席に座る。







「他にも席空いてんだろ」








「そうですね。でも…俺は貴方と話したかったんですよ」







その言葉に中也は座った少年をじっと見つめる。
洒落た帽子に黒と茶色がうまく混ざったようなチョコレート色の長い癖毛。
男にしては白い肌に、恐ろしく整った目鼻立ち。
そしてなにより、深い青紫色の瞳。







「…手前、何者だ」







「…驚いた、まだ気づかないなんて太宰さんの云った通り脳筋なんだ」







「あぁ！？手前今なんつった！！」







初対面にも関わらずとんでもない爆弾を落とした少年に怒鳴るが、彼は「嘘です」と胡散臭い笑みを浮かべる。
怪しい、どこから見ても怪しすぎる。






「ま、一回で気づく方が凄いか。
でも若い時から小さかったって話、母さんの云った通りなんだな」








こいつ潰してやろうか。
中也がビキビキと青筋を浮かべた時、ふと気付いた。
独特の癖がある髪の毛、見覚えのある帽子、自分と似た色の瞳。
まるで、自分の特徴を受け継いだような。








「漸く気付いた？」








少年は立ち上がると、恭しく帽子を取り、お辞儀をする。
ふわりと焦げ茶色の髪が揺れた。







「初めまして。俺はある別の世界から来た、貴方の子供です。
取り敢えずよろしく。…父さん」








「…は、はぁぁぁああ！？」







静かなカフェテラスに、中也の声が響いた。

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