【文スト】この世界と番外編 その八

少女が生まれた日は ［夜叉夜叉様リクエスト］ ページ14

梅雨の時期のある日。
探偵社の社長室でAからの要求に福沢は顔をあげた。





「休みが欲しい？」






そう聞けば、Aは一瞬躊躇い、そしてはい、と答えた。
休みなどどうとでもなるが、Aがこうして頼みに来るとは珍しい。
難しそうな福沢の表情にAは小さく答える。






「ご迷惑をおかけしてしまいますが…この日は、どうしても…」






はっきりしない、らしくない云い方だった。
福沢はカレンダーを見て、ふむ、と頷く。






「判った、別に迷惑だとは思っていない。
たまの休みくらい羽を伸ばせ」






「…ありがとう、ございます」






一瞬苦しそうな表情を見せ、Aは退室した。
苦しそうな表情の理由は最後まで判らず、福沢は首をひねる。







「しゃーちょー！！」







ノックも無しに入ってきたのは乱歩だった。







「Aどうしたの？なんか変だったけど」







飴を舐めながら聞く乱歩に、福沢は判らないと返す。
すると彼はカレンダーを見て、なにかに気づく。







「ねぇ、もしかしてその日って…」








それから少しして、Aが福沢に頼んで貰った休みの日になった。
六月二十七日、天気予報は雨。
朝早くから家を出て、真っ白い百合の花束を片手に、傘を持ち歩く。
まるで人々の喧騒から切り離されたように、Aは静かだった。







『また、雨か』







梅雨だから仕方ない。
でも、記憶にある限り、この日はずっと雨だった。
まるで、"誰かの涙が流れる"ように。







『あぁ、嫌なことを考えてしまう』







パシャリと水たまりを踏んで、人の流れから外れる。
向かった先は深い森、そしてその中を躊躇いもなく進んでいく。
ぬかるんだ地面に足を取られながらも、目的の場所についた。






「…久しぶり、お母さん」







森の中の開けた場所、緑に囲まれた一角、赤い彼岸花が咲き誇る教会。
季節でもない花が咲くそこはかつて母が住んでいた場所だった。
花を踏まないように進み、教会の前に花束を置き、その隣に林檎を手向けた。







「お母さんは、後悔してませんか…？」







誰もいないそこに問いかけるように、Aは聞く。







「この日に、私を生んだことを」







六月二十七日、今日は自分の誕生であるが決して祝えるような日じゃない。
誕生日であると同時に、







「貴女が、死んでしまったこと」







母である雪が、この世を去った日なのだから。

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