【文スト】この世界と番外編 その八

＊ ページ13

据わった目のAはケースから乱暴に人形を取り出すと、それを岩塩の山の上に置いた。
塩は塩だが、なんか違う。





「…これ間違った方法じゃない？」






「素人がやるんですから当たり前でしょう…潰して捻って殺す」






「塩酸はやめたまえ、ちょ、誰かこの子止めて！！」






弟のように、それはもう可愛がっているQを酷い目に合わせた人形に恨みが止まらない。
塩酸をぶちまけようとするAを止めると、太宰は中也を睨んだ。





「あのさ、流石に素人にやらせるのは気が乗らないのだよ。
だからこれ中也が持って帰りなよ、あの中也臭がする部屋にピッタリだよ」






「巫山戯んな、誰がこんなイカれた人形持って帰るか。
俺だって出来る事あんなら協力するが、手前は要らねぇだろ？」






「人虎、貴様がこれを切り裂け。畜生の貴様ならどうとでもなるだろう」







「お前、僕をなんだと思ってるんだ！
そもそもAちゃんに頼ってるくせになんで偉そうなんだよ！！」






始まった喧嘩に、Aは苛立ちを覚えた。
喧嘩するなら外でやれ、ここでするな。






『…シネ』






無機質な声と共に、窓ガラスが割れた。
咄嗟に飛び退いた為、大怪我はしなかったが、頬に赤い線が走った。
そして、切れた。






「上等だボロ雑巾」







嗜虐的な表情を浮かべ、Aはナイフを振り下ろした。
躊躇いなどなく、切り裂かれた布から綿が飛び出す。






『…コロス』







不気味な声と共に、人形から黒い霧のようなものが染み出してくる。





「やれるもんならやってみろ」







霧が襲いかかる、中也が手に異能を込めた、まさにその瞬間、可憐な声が響いた。







「駄ぁ目」






優しげな声と共に、黒いモノが動きを止めるを
白いワンピースをふわりと靡かせた少女は甘く微笑んだ。






「悪い子、コレクションが勝手に逃げては駄目でしょう？」






切り裂かれた人形を持ち上げ、少女は「手に入れるの苦労したのに…」と呟く。
Aと同じ顔の少女、雪は五人に向かってニコリと笑顔を見せた。






「ごめんなさい、私のコレクションがご迷惑をかけて。
ちゃんと躾けておきますので」







パチン、と雪が指を鳴らすと人形も雪も消えていた。
残されたのは、またあの人かと頭を抱える者だけ。






「…あとさ、これ除霊じゃなくて物理攻撃だよね」







太宰がしんみりと、机の上の凶器を見てつぶやいた。

少女が生まれた日は ［夜叉夜叉様リクエスト］→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す