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三十九話 [意思は脆くも美しい] ページ41

冷たく、感情すら感じない声。
紫色の瞳がこちらを見つめる。



「普通って…なにを基準にして云ってるの?」



「そりゃあ…世間の…」



「世間の大半が普通だと云ったらそれは普通になるの?」



普通。
普通とはなにか。
少女が最も悩み、考え、そして諦めたモノ。



「普通ってのは結局、社会っていう枠組みの中で、大人しくしてる人の事を云う。
努力をする者を秀才と呼び、特に優秀な者を天才と呼ぶ。
そして…誰にも理解されない者を異端と呼ぶ」



憎々しげに彼女は云った。
まるで何かを思い出すかのように。



「異端は誰からも理解されない。…でも」



彼女は真っ直ぐ中也を見つめた。
そして、辛そうに笑った。



「誰からも理解されないのは…苦しい。
でも…それが自分の思う正しい道なら前に進むだけ」



壊れてしまいそうな笑顔だった。
ほんの少し、誰かが触れただけで粉々に砕けてしまいそうなほどだった。
それなのに、彼女の意思はとても真っ直ぐで。



「だから私は彼らの道に口出しするつもりはない。
やってることについては批判するかもしれない。
でも…その道に生きようと決めた覚悟を否定するつもりはない」



『嗚呼、綺麗だ』



哀れなほど弱く、愚かなほど真っ直ぐな意思。
それは、彼を引き込むには充分すぎて。
彼には、彼女がどう見えただろう。
美しい天使か、罪深い悪魔か。
どちらにせよ、彼は彼女に心を奪われた。



「…そーかよ。じゃあ好きにしろ」



ぶっきらぼうに答えつつ、うまく隠せていたかは分からない。
この感情はなんと呼ぶべきか。
恋心、加護欲、または執着心?



『知るかそんなの』



あの美しい黒をどんな手を使っても手に入れたい。
でも嫌われたくない。
欲しい、でも守りたい。



「あーッ…」



考えすぎて頭がぐちゃぐちゃだ。
それでも一つ、言えることがある。



「絶対に俺のモンにする」



静かに呟かれたその言葉は彼女の耳には届かなかった。
そしてその中也の感情は、
奇しくも今まさに少女を探している元相棒と
全く同じモノである事をまだ誰も知る由もない。

四十話 [中原中也という男]→←三十八話 [マフィアの忠告]



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太宰の包帯希望者 - シリアスううううう!めっちゃ好みです!更新頑張ってください (2月5日 22時) (レス) @page21 id: efd9a7d1a1 (このIDを非表示/違反報告)
条野さんの鈴飾り食べたい - ネタが思いつかないので申し訳ないのですがこちらの『この世界で生きるのは不可能という結論が出ました』の小泉ちゃんとコラボさせて貰っても宜しいでしょうか?誠に勝手で申し訳ございません。 (2022年12月17日 11時) (レス) id: 36ec43f1b9 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 碧さん» ご指摘ありがとうございます。実はあえて意味がおかしい英語にしています。その話自体がギャグのような内容なので、正しい英文より、日本語に直すと面白い英文の方が良いかと思い、あえて間違った内容にしております。 (2021年12月14日 7時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 二十三話太宰の中のドラムになってませんか? (2021年12月12日 18時) (レス) @page25 id: 6588339009 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ルチアーノさん» ご指摘ありがとうございます。直しておきます。 (2021年3月23日 20時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年3月11日 14時

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