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二百九話 [利用する覚悟] ページ9

かつての自分なら、他人が傷つこうが死のうがなんとも思わなかった。
それに値する人間は居なく、周りは怪物のように醜い私利私欲の人間だけ。
期待し、裏切られ、呆れ、そして期待するのをやめた。



『全てが莫迦らしく見えた』



こんな者達に利用されている自分が惨めだった。
他人の為に己が傷つくなど馬鹿らしかった。



「だからこそ、かな…」



この身を削っても守りたいと思える人達に出会えたことは奇跡だった。
漸く手に入れたからこそ、昔の自分なら決してしないような事もできる。
パソコンに文字を打ち込み、宛先を入力する。
以前に太宰が教えてくれた、ある人のアドレスだ。



「私が頼れるのは…彼しかいない」



現状、彼が最も可能性があり、そして"利用価値"がある存在。



『彼奴らと同じ事、してる』



あの家の者達のように、彼を利用しようとしている自分に嫌悪感すら抱いた。
最低だ、あれだけ嫌っていたくせに。
知人としての立場を利用する自分を蔑む。



『同族じゃないか』



彼への善意の行動を全て取引の材料にする。
場合によっては脅しの材料もある。



『でも、彼奴らと同じに成り下がっても私は…』



守りたいものがある。
己の信念に背いても、探偵社員として間違っていても
仲間の命を救いたいと思うのは間違っているだろうか。



「守りたいんだ…全部」



タンッ、とキーを押すと画面に送信の文字が表示された。
これでもう戻れない、彼は恐らくメールの意味に気づくだろう。
それで連絡が来れば取引は始まる。



「やるならとことんやる。…後のことは今は考えない」



静かな教会に少女の声が響いた。



『一件の新着メールがあります』



「…あ?」



自身の携帯に表示された文字に彼は目を細めた。
こんな時に連絡を入れてくる者などいないはず。



「メール?」



そのメールの送り主は細工をしたのか隠されていた。
このアドレスを知っている者は限られている。
誰がこんなことを?



「…」



いつもなら無視するのだがこの時は何故かそれが出来なかった。
メールをタップし、開く。
それはパスワードでメッセージが見える、特殊なものだった。



「出会い…」



四桁のパスワードを見つめ、彼は一瞬なにかを考える。
そして、ゆっくりとした手つきで数字を打ち込んだ。
メッセージの鍵が、無機質に開いた。

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riia - こんなに長いお話は初めてみるので尊敬します!他の夢小説よりちゃんとしていてすごく面白いです!神作だと思います!大好きです!登場人物の性格もちゃんと掴めていて見ていて楽しいです!ほんとに文ストの中に居そうで違和感がありません!設定とか凄いと思います!! (2022年8月5日 16時) (レス) @page24 id: 9d716aa4c8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - †三毛猫†さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。泣いていただけたようで、書いているこちらとしてはとてもありがたい事です。とても嬉しいです。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年5月19日 12時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
†三毛猫†(プロフ) - 毎回、夢主ちゃんの過去のお話しで泣いてしまいます。こんなに感動できる物語がかける作者さんを尊敬してます (2019年5月18日 19時) (レス) id: a139b9767e (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - さくらかつきのようになりたい←さん» コメントありがとうございます。そんなに喜んでいただけるとこちらとしても書いていてよかったと思います。近々、第7章を出しますのでよろしければ読んでください。皆様の応援、大変嬉しいです。今後とも、この作品をよろしくお願いします。 (2019年5月18日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
さくらかつきのようになりたい← - BEASTも楽しみにしてます!小泉ちゃんがどう活躍(?)するのか…アッダメだ私の脳じゃ思い付かない…!!(←)コホン…体調にも気を付けて、作者さんのペースで更新して下さい!(← 何か上からで済みません…!!)我々読者は何時までも待ち続けております!!長文失礼しました! (2019年5月17日 20時) (レス) id: 1276fff981 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年6月9日 19時

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