【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 6

二百八話 ［揺れる意思の中］ ページ8

通信が切れた監視カメラの画面を見つめ、Aは震える手を押さえた。



「猟犬、部隊…」



天人五衰だけでなく、猟犬部隊。
しかも軍警も完全に敵となった。
まさに四面楚歌、周りは皆敵。



「このままでは探偵社は…」



今、探偵社は圧倒的に不利な状況にある。
一手間違えれば即終了、下手をすれば、死ぬ。



「そうはさせない…探偵社の無実を証明してみせる…！」



今自分は動けない。
ならば仲間の逃亡の手助けをするのが最優先だ。



「周辺の監視カメラの映像にハッキングしてみよう」



最近身につけた知識がこんなところで役に立つとは思わなかった。



「逃走手段は車か電車…。
洋館から一番近いのは道路だから…恐らく車だ」



周辺道路の映像に潜り込み、それを画面に写す。
夥しい量の監視カメラの中から、国木田達を探す。



『うまく逃げ切れるだろうか』



映像を凝視するAの目に不安が混じる。
猟犬部隊といい、警察の包囲網といい、うまくやれるか全く判らない。
もし捕まればきっと、死刑だ。



「…」



そうなる前になんらかの手は打たなくてはいけない。
猟犬部隊の異能が判れば戦況は少しぐらい良くなるはず。
その為には彼らの情報が必要なのだ。



「…まだ"あの人"には頼まない」



自分に云い聞かせるように呟く。
すると、ある監視カメラに映る車が道路のど真ん中で急ブレーキをかけた。
まさかと思い、それに目を向けると、荒い映像の中で車から金色の髪の少年が弾き出された。



「賢治…！」



彼を弾き出した人物の姿が見える。
猟犬、条野採菊だった。
すると彼は何か見えないものに引っ張られ車外に放り出される。
谷崎が異能で姿を消し、自分ごと引きずり下ろしたのだ。
速度がある車から放り出されたのにも関わらず条野は平気そうに立っていた。



「まずい…！」



条野の後ろに同じ猟犬、末広鐵腸の姿を確認した。
ぶつかる、猟犬と激突する。



『どうする、"彼"を頼る？』



電波妨害がいよいよ入り始め、映像が乱れる。
もう間も無く映像は止まってしまうだろう。



『でも、彼を頼ると云うことは』



揺れる意思の中、あの時の言葉が脳に響く。



『頼んだよ』



迷いが弾ける。
太宰は、自分に託した。
なら、もう手段なんて選んでいられない。



「やるしか、ない」



迷ってなんて、いられない。

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