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二百四十一話 [あの日の罪] ページ43

父は自分のせいで死んだ、そう口にしたAの目は酷く辛そうで、悲しげだった。



「母は…元来体が弱く、私を生んだことが原因で亡くなりました。
私の誕生日は…母の命日でもあるんです」



それが昔から苦しかった。
父はそのことを隠し通そうとした。
でも、知ってしまった。



「父は…愛する人を殺した子を一人で育てました」



あの二人にはお互いしか居なかったのに。
それを、何も知らない愚かな子どもが引き裂いた。



「私は父が好きでした。本当に、尊敬していた」



父親としても警察官としても、本当に凄い人だった。



「父のようになりたいと思った…でも、私にはなにかが足りなかった」



父のように真っ直ぐな、穢れのない正義の心を持てなかった。
そして同時に、



「そして、私は心の何処かで常に思ってました」



自分の手を見つめ、Aは絞り出すように呟く。



「私は…父に恨まれているのではないかと」



母の写真を見つめる父の横顔は本当に辛そうで、見ているのが苦しかった。
それだけ父は母を愛していたのだ。



「だってそうでしょう。
愛した人を殺した命を、どうやって愛せますか」



唯一の家族に恨まれているかもしれないという恐怖はいつからか芽生えていた。
なにをするにもそのことが頭をよぎり、父との距離ができ始めていた。



「父と接するのが怖くなった…もしもお前なんて要らないと云われたら?
もしもお前なんて愛していないと云われたら?
その思いは強くなり…本当に、最後にはいつ捨てられるかという恐怖だけが私を支配した」



怖かった、要らないと云われることが。
少しずつ募っていく恐怖に怯え、同時に自己嫌悪に陥っていた、あの日。
忘れもしないあの日。



「雨が降っていた、私の十二歳の誕生日」



その日は毎年、多忙な父が休みを取っていた。
だがあの日は色々なものに押しつぶされそうになり、
加えて学校でうまく同級生と馴染めない事も負担になっていた。



「父と些細なことで口論になり、云ってしまったんです」



いつもならあんなに熱くならなかった。
でもあの日は、ずっと溜めていたものが溢れ出したのだ。



「『本当は私を恨んでいるのでしょう』…と」



あの時、亀裂は決定的なものになった。
そして、少なくともあの言葉さえ無ければ…



『あの言葉さえ、あの日さえ無ければ父は、生きていた』

二百四十二話 [永遠の別れの瞬間]→←二百四十話 [貴女の罪、私の罪]



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riia - こんなに長いお話は初めてみるので尊敬します!他の夢小説よりちゃんとしていてすごく面白いです!神作だと思います!大好きです!登場人物の性格もちゃんと掴めていて見ていて楽しいです!ほんとに文ストの中に居そうで違和感がありません!設定とか凄いと思います!! (2022年8月5日 16時) (レス) @page24 id: 9d716aa4c8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - †三毛猫†さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。泣いていただけたようで、書いているこちらとしてはとてもありがたい事です。とても嬉しいです。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年5月19日 12時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
†三毛猫†(プロフ) - 毎回、夢主ちゃんの過去のお話しで泣いてしまいます。こんなに感動できる物語がかける作者さんを尊敬してます (2019年5月18日 19時) (レス) id: a139b9767e (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - さくらかつきのようになりたい←さん» コメントありがとうございます。そんなに喜んでいただけるとこちらとしても書いていてよかったと思います。近々、第7章を出しますのでよろしければ読んでください。皆様の応援、大変嬉しいです。今後とも、この作品をよろしくお願いします。 (2019年5月18日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
さくらかつきのようになりたい← - BEASTも楽しみにしてます!小泉ちゃんがどう活躍(?)するのか…アッダメだ私の脳じゃ思い付かない…!!(←)コホン…体調にも気を付けて、作者さんのペースで更新して下さい!(← 何か上からで済みません…!!)我々読者は何時までも待ち続けております!!長文失礼しました! (2019年5月17日 20時) (レス) id: 1276fff981 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年6月9日 19時

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