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二百四十話 [貴女の罪、私の罪] ページ42

ピチョン、と雨水が落ちる音が響く。
そして、二人分の足音が。



「…まさか、アンタがここに来るとは思ってなかったよ」



与謝野が重い空気を振り払うようにそう云った。
Aはその言葉には答えず、そして静かに口を開いた。



「与謝野先生、あの異能者…知ってますか?」



ピタリと、与謝野の足が止まった。
あの猟犬の異能はよく判らないが…



「恐らく、あの異能は金属操作」



金属、与謝野の記憶の中で金色の蝶を渡してくれた青年が笑う。
あの青年も、金属を操っていた。



「心当たり、ありますよね」



「…アンタ、太宰に似てきたね」



「は、い?」



「まるで嘘がバレてるみたいだよ、やっぱり似るモンだね」



与謝野の髪で金色の蝶が光る。
彼女はひとつ、またひとつと語り出した。
十四年前の自分の過去、許されない罪、そして乱歩により救われた事。



「あれは…妾が居たから起こった悲劇さ」



治癒異能を持った天使に起きた、惨劇。
Aはその話を時折悲しげな顔で聞き、唇を噛み締めた。



「あれは妾の罪なんだよ」



ひたりと、首筋に水が触れた。
Aは与謝野の話を最後まで、黙って聞いていた。



「変な話をしたね、忘れてくれ」



「…与謝野先生は」



Aが静かに与謝野の目を見つめた。



「それが、罪だと思いますか」



「…あぁ、思うさ」


何年経っても、あの痛みを忘れたことは無い。
あれは自分の罪である罰だ。
Aは静かに与謝野を見つめた後、口を開いた。



「君も罪の子、我も罪の子」



「…なんだい、そりゃあ」



「ある有名な人の残した言葉です」



史実の与謝野晶子、みだれ髪にあった短歌。



「貴方も私も、罪を背負った人間だという意味です」



Aは一瞬息が詰まったように言葉を飲み込み、辛そうに唇を歪めた。



「与謝野先生、貴女が罪人なら、私も同じ、いやそれ以上です」



心臓の辺りに手を当てる。
この罪の命は今もこうして生命を宿している。



「私は生まれた時、母を殺しました」



病弱な母を殺した、その瞬間から罪人なのに。



「父が死んだ本当の理由…話してませんでしたね」



Aは思い出すように目を伏せ、そして罪を告白する。



「私の、せいなんですよ」



六年前、父は、私のせいで死んだ。

二百四十一話 [あの日の罪]→←二百三十九話 [誰を選んで守る]



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riia - こんなに長いお話は初めてみるので尊敬します!他の夢小説よりちゃんとしていてすごく面白いです!神作だと思います!大好きです!登場人物の性格もちゃんと掴めていて見ていて楽しいです!ほんとに文ストの中に居そうで違和感がありません!設定とか凄いと思います!! (2022年8月5日 16時) (レス) @page24 id: 9d716aa4c8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - †三毛猫†さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。泣いていただけたようで、書いているこちらとしてはとてもありがたい事です。とても嬉しいです。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年5月19日 12時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
†三毛猫†(プロフ) - 毎回、夢主ちゃんの過去のお話しで泣いてしまいます。こんなに感動できる物語がかける作者さんを尊敬してます (2019年5月18日 19時) (レス) id: a139b9767e (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - さくらかつきのようになりたい←さん» コメントありがとうございます。そんなに喜んでいただけるとこちらとしても書いていてよかったと思います。近々、第7章を出しますのでよろしければ読んでください。皆様の応援、大変嬉しいです。今後とも、この作品をよろしくお願いします。 (2019年5月18日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
さくらかつきのようになりたい← - BEASTも楽しみにしてます!小泉ちゃんがどう活躍(?)するのか…アッダメだ私の脳じゃ思い付かない…!!(←)コホン…体調にも気を付けて、作者さんのペースで更新して下さい!(← 何か上からで済みません…!!)我々読者は何時までも待ち続けております!!長文失礼しました! (2019年5月17日 20時) (レス) id: 1276fff981 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年6月9日 19時

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