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二百三十話 [蝶を夢む] ページ32

一人、仲間と別れた車の中でAは膝を抱えて考え込んでいた。



『君には、真実を知る義務がある』



「いったい…何を知れって云うの」



フィッツジェラルドのあの言葉、彼は何を知っている?
考えれば考えるほど、冷静な筈の頭はノイズがかかったように判らなくなる。



「…なにを、見極めれば…」



無意識のうちに、指先が喉に向かう。
それこそが知るべき事だと、彼女はまだ気づかないまま。


場所は変わり、マフィアの隠れ家に響くのは激しい与謝野の声。
彼女は椅子を蹴り上げ、叫んだ。



「巫山戯ンじゃないよ!」



「…巫山戯てなどいないよ。
探偵社員はバラバラに逃げて貰う、既に経路も手配済みだ」



淡々とした森の言葉に、与謝野が彼を睨みつける。



「逃げて!その次は!?」



「次?次など無い。
潜伏地で君達は静かに暮らす」



与謝野は怒りに任せて森の胸ぐらを掴み上げ、暫く睨みつける。



「…思った通りだ、アンタには探偵社を救う気なんて毛頭ない」



「何?」



「探偵社を救う条件が『社員誰か一人の移籍』?嗤わせる」



条件の相手は初めから決まっていた。



「アンタの狙いは、この妾を手に入れる事だけだろ!!」



「….…そうだが、それが何か?」



森の言葉は淡々として、隠す気すらない。



「だがね、与謝野君、福沢殿はその事も承知で取引した。
君に抗う権利など無いのだよ」



Aが中也との取引に自分を差し出す事すら受け入れたように、
与謝野にも条件を拒む権利は無い。
だが、



「社長がそんな事云う筈ない」



その言葉に、森は目を伏せる。
探偵社員保護を受け入れた時、社員のマフィア移籍を条件とした。
福沢は低い声でそれを受け入れた後、云った。
与謝野君は選ぶな、彼女に貴君の助手は"二度"と耐えられない、と。



「…いいや、福沢殿は『君を指名しても善い』と云った」



森の言葉に、与謝野が顔を青くさせる。
その時、部屋に広津が入っていた。
その手には無線機が。



『よう、元気か親友』



聞こえてきたのは、フィッツジェラルドの声。
福沢の森との取引、Aの中也との取引。
そして、敦のフィッツジェラルドとの取引。
誰もが己の信念の為に行った取引。
果たして、全ての取引に勝利の女神は微笑むのか。
それとも、笑いかけるのは残酷な悪魔か。

二百三十一話 [罠と、赤と白]→←二百二十九話 [その目に映るものは]



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riia - こんなに長いお話は初めてみるので尊敬します!他の夢小説よりちゃんとしていてすごく面白いです!神作だと思います!大好きです!登場人物の性格もちゃんと掴めていて見ていて楽しいです!ほんとに文ストの中に居そうで違和感がありません!設定とか凄いと思います!! (2022年8月5日 16時) (レス) @page24 id: 9d716aa4c8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - †三毛猫†さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。泣いていただけたようで、書いているこちらとしてはとてもありがたい事です。とても嬉しいです。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年5月19日 12時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
†三毛猫†(プロフ) - 毎回、夢主ちゃんの過去のお話しで泣いてしまいます。こんなに感動できる物語がかける作者さんを尊敬してます (2019年5月18日 19時) (レス) id: a139b9767e (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - さくらかつきのようになりたい←さん» コメントありがとうございます。そんなに喜んでいただけるとこちらとしても書いていてよかったと思います。近々、第7章を出しますのでよろしければ読んでください。皆様の応援、大変嬉しいです。今後とも、この作品をよろしくお願いします。 (2019年5月18日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
さくらかつきのようになりたい← - BEASTも楽しみにしてます!小泉ちゃんがどう活躍(?)するのか…アッダメだ私の脳じゃ思い付かない…!!(←)コホン…体調にも気を付けて、作者さんのペースで更新して下さい!(← 何か上からで済みません…!!)我々読者は何時までも待ち続けております!!長文失礼しました! (2019年5月17日 20時) (レス) id: 1276fff981 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年6月9日 19時

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