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二百十六話 [対価というもの] ページ16

対価なき取引など成立しない。



『探偵社とマフィアとして取引するってことはそこに対価がなきゃならねぇ。
今の手前に、何が支払える?』



今の自分になにができる?
マフィア側が納得するような対価、代償。



ー損失なき利益は有り得ないー



嗚呼、とAは気づいた。
対価の内容なんて今はどうでもいい。
何を失おうと居場所に変えられるものなんて無いのだから。



「貴方が納得するものを…対価にすれば良いんですね」



Aの声はひどく落ち着いていた。
もう、迷うことなんてなかった。



『あぁ…だが俺が納得できるようなもんは…』



「"なんでも差し出します"」



『…は?』



「そちらが提示したものをなんでも差し出します。
私に限定したものをなんでも…それがなんだとしても」



『…手前、本気で云ってんのか?』



中也の声が低い。
それだけ自分が差し出した対価は大きいのだ。



『マフィア相手に"なんでも差し出す"ってどういう意味か判ってんのか』



マフィアは裏の組織。
法の外の存在、容赦なんてない。
骨の髄まで貪り食われても文句は云えない。
そんな彼ら相手になんでも、という言葉がどれだけ恐ろしいか、彼女も判っていた。



「判ってます。
なんでも、ということは私はそちらの願いをなんでも叶えなくてはならない。
…それがマフィア移籍であろうと構いません」



あれだけ拒否したマフィアへの加入を彼女はあっさり了承した。
生殺与奪はマフィアに渡される。
Aという存在が対価となった。
つまり、決定権は完全にマフィア側に委ねられたのだ。



『本気なんだな』



「…はい」



あぁ、本当に真っ直ぐだ。
真っ直ぐすぎて哀れになってしまうくらいに。
仲間を救う為に自分の身を差し出すくらいに。



『…判った。取引成立だ』



ならばそれを叶えるしかない。
もう、戻れないのだから。



『後悔すんなよ』



「はい、ありがとうございます。
…一つ、伝言を頼んでもいいですか」



『云ってみろ』



ぐっと唇を噛み締める。
もう誰も傷ついて欲しくない。
でも、傷つくとしても



「絶対に、死ぬなと」



『…判った』



切るぜ、と通信が切られた。
静寂が襲って来る。
膝を抱えて小さく震える。



「どうか…仲間を助けて」



薄暗い教会で魔女の娘は祈る。
仲間を、助けてくれと。

二百十七話 [社会の敵]→←二百十五話 [駆け引きの二人]



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riia - こんなに長いお話は初めてみるので尊敬します!他の夢小説よりちゃんとしていてすごく面白いです!神作だと思います!大好きです!登場人物の性格もちゃんと掴めていて見ていて楽しいです!ほんとに文ストの中に居そうで違和感がありません!設定とか凄いと思います!! (2022年8月5日 16時) (レス) @page24 id: 9d716aa4c8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - †三毛猫†さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。泣いていただけたようで、書いているこちらとしてはとてもありがたい事です。とても嬉しいです。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年5月19日 12時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
†三毛猫†(プロフ) - 毎回、夢主ちゃんの過去のお話しで泣いてしまいます。こんなに感動できる物語がかける作者さんを尊敬してます (2019年5月18日 19時) (レス) id: a139b9767e (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - さくらかつきのようになりたい←さん» コメントありがとうございます。そんなに喜んでいただけるとこちらとしても書いていてよかったと思います。近々、第7章を出しますのでよろしければ読んでください。皆様の応援、大変嬉しいです。今後とも、この作品をよろしくお願いします。 (2019年5月18日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
さくらかつきのようになりたい← - BEASTも楽しみにしてます!小泉ちゃんがどう活躍(?)するのか…アッダメだ私の脳じゃ思い付かない…!!(←)コホン…体調にも気を付けて、作者さんのペースで更新して下さい!(← 何か上からで済みません…!!)我々読者は何時までも待ち続けております!!長文失礼しました! (2019年5月17日 20時) (レス) id: 1276fff981 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年6月9日 19時

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