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二百四十四話 [罰を受け容れる] ページ46

「父は私が母のことで自分を追い詰めていたことを知っていた…だから母のことを話そうとしなかったんです」



それが裏目に出てしまった。



「父があの日話そうとしていたのは母のことでした」



帰ったら話がある。
それは娘を捨てるような話ではなく、亡くなってしまった母についてのことだった。
それを話して、誤解を解こうとしていた。
だがそれは叶わなかった。



「親子なのに…いつのまにかすれ違っていたんです」



そしてそのまま終わってしまった。



「もう少しお互いに踏み込み合う勇気があれば…」



手紙を読んで、泣いて、叫んだ。
疑ってごめんなさい、信じなくてごめんなさい。
涙でぼやける視界の中、父の手紙の最期の一行は。



『絶対に、生きて幸せになりなさい』



死ぬことなんて、出来なかった。
父との最後の約束だから。



「あの日から…私は生きると決めました。
例え、死にたくなるほど苦しくても」



だって約束だから、赤い唇がそう囁く。
気づけば与謝野は、Aを抱きしめていた。



「もういい、もう自分を責めるのはやめな…」



この子は、父親を本当に尊敬していた。
だがそんな父を語る口で彼女は自分自身を責め続けていたのだ。
自分が父を殺したのだと。



「アンタは悪くない、悪くないんだよ…」



「…すみません、そんな顔させたかったんじゃないんです」



孤独と絶望の中、この少女を生かしたのは父の呪いにも似た約束だった。
どんなに苦しかっただろう、どんなに痛かっただろう。
己のせいで人を死なせた苦しみは、与謝野には痛いほどよく判る。



「人は…必ず罪を背負っているものです」



だから今日も心のどこかで責め続ける。
それが生きる理由でもあるから。



「私は、罰を受け容れてます」



そう云って笑ったAの頭を、与謝野はそっと撫でた。
この子はこの先も、変わらないと確信したから。



「…アンタは、強いね」



「そんなことありません」



「でも…たまには甘えてもいいんだよ」



その言葉にAの目が一瞬見開かれる。



「…今日は優しいですね。
いつもは手術台にくくりつけるのに」



「帰ったら特別コースにしてやろうか」



「嘘です。…帰ったら、元に戻ったら他の社員にもやってくださいね」



その為にはこの腐ったシナリオを変えよう。
カツン、と再び足音が響いた。

二百四十五話 [合流、そして犯人は?]→←二百四十三話 [父からの手紙]



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riia - こんなに長いお話は初めてみるので尊敬します!他の夢小説よりちゃんとしていてすごく面白いです!神作だと思います!大好きです!登場人物の性格もちゃんと掴めていて見ていて楽しいです!ほんとに文ストの中に居そうで違和感がありません!設定とか凄いと思います!! (2022年8月5日 16時) (レス) @page24 id: 9d716aa4c8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - †三毛猫†さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。泣いていただけたようで、書いているこちらとしてはとてもありがたい事です。とても嬉しいです。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年5月19日 12時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
†三毛猫†(プロフ) - 毎回、夢主ちゃんの過去のお話しで泣いてしまいます。こんなに感動できる物語がかける作者さんを尊敬してます (2019年5月18日 19時) (レス) id: a139b9767e (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - さくらかつきのようになりたい←さん» コメントありがとうございます。そんなに喜んでいただけるとこちらとしても書いていてよかったと思います。近々、第7章を出しますのでよろしければ読んでください。皆様の応援、大変嬉しいです。今後とも、この作品をよろしくお願いします。 (2019年5月18日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
さくらかつきのようになりたい← - BEASTも楽しみにしてます!小泉ちゃんがどう活躍(?)するのか…アッダメだ私の脳じゃ思い付かない…!!(←)コホン…体調にも気を付けて、作者さんのペースで更新して下さい!(← 何か上からで済みません…!!)我々読者は何時までも待ち続けております!!長文失礼しました! (2019年5月17日 20時) (レス) id: 1276fff981 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年6月9日 19時

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