そして、君の幸せに生きた。3【野坂悠馬】

手と手 ページ24

「行く行く！でもなんでそんなに、私に構ってくれるの？」


「え？」


「野坂くんって…ひょっとして、何か変わった？」


僕を変えた当本人にですら、こう聞かれる始末だ。
僕が変わったのは間違いないだろう。


「…さぁ、どうだろうね。」


「ははっ、否定はしないんだ。」


そして君は、また笑った。


ただ僕が答えをはぐらかしただけだと言うのに
君は何がおかしかったのだろうか。


「ねえ！夕飯、食べに行こうよ。」


「僕は別に構わないけど、足の具合は大丈夫なの。」


「まぁ、何とかなるよ。それよりさ、美味しいものいっぱい食べたくない？」


君のその一声で、外に出た。


明るい駅前の商店街を、まるで宝探しをするように君ははしゃいで歩いていた。


その姿が、お祭りの屋台にはしゃぐ君と重なって
僕は思わず手を伸ばしてしまう。


「…え？」


彼女の心踊るような足取りは、ピタリと止まって
二つのビー玉が僕の顔を見つめた。


「…君が逸れて迷子になったら、僕のせいみたいになるでしょ。」


こんな台詞はただの僕の屁理屈に過ぎないということは、頭のどこかで分かっている。


それでも僕はその細い手首じゃ何故か物足りなくなって、自分の指で君の指を捕まえた。


ただ、君の温度が欲しかったからだ。


「はっ…逸れないよ！子供じゃないんだからさぁ！」


屋台ばかりに気を取られて、どんどんと自分一人で進んでいった上に
他人に声をかけられて怯えた顔をしていたのはどこの誰だというのか。


違う世界の、君だ。


「んー！美味しい！」


顔を赤くしてまで怒り気味だった彼女は、どこへ行ったのだろうか。
店員が机に置いたオムライスに、その表情は一瞬にして蒸発し
彼女はそれを頬張った。


「野坂くんも食べな！すっごい美味しいよ。」


「…うん。」


彼女のこの顔を見ていると、生きた心地がするのは何故なのだろう。


ずっと疑問に思っていることなのに、僕にはその答えが分からなかった。


「ねぇ、乃坂さん。」


君の名前を、君が起きている時に初めて呼んだ。


「なっ…。」


僕がただ名前を呼んだだけで、こんなにも嬉しそうな顔を浮かべてくれる人がこの世界に存在することを


僕は今まで知らなかった。


「何？野坂くん。」


君は満面の笑みを浮かべていた。


「何か、やりたいことはないの。」


もうすぐ終わってしまう、かもしれない君の人生を

僕は出来る限り色付けたい。

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