願い ページ38
「野坂くん!」
君は意気揚々と振り返った。
まるでとっておきの宝物を見つけたようだ。
「やっぱり、合ってた!鳥居見えてきたよ。」
君の言う通り、鬱蒼と生い茂る木々と木々の間に赤い鳥居が映えていた。
花火の時も、同じことを思ったけれど
この世界にはまだ僕の知らない景色がたくさんあるらしい。
「結構遠かったねぇ。」
「うん。」
「野坂くんは、なにお願いする?」
「お願い?」
通説に従えば、鳥居ではなく本殿に祈り事をするのが正しいだろうとは思ったけれど
細かいことは気にせず、君の心ゆくままにするとしようか。
「君は?」
「えー、どうしよっかな。」
人には聞いておいて、自分は決めていないらしい。
なんとも君らしいことだ。
両脇の木々が水に変わり、陽の光を水面が反射して煌めいた。
鳥居はやはり水中に柱を構えて立っているようだったが、石段が鳥居の下まで続いていた。
「ははっすごい!夢の中の景色みたい。」
君はこんなにも幻想的な風景を夢に見るのか。
やっぱり、僕にとって君は遠く及ばない所にいるのかもしれない。
君ははしゃいでその石段の先端まで走っていった。
君のことだから、勢いあまって水に落ちやしないかと心配になったけれど、流石にそこまでのドジをやらかすわけではないようだ。
「すごーい!ずっとね、一回は来てみたいって思ってたんだ!ここ!」
君の中には、そうやって“一回は行ってみたい”と思う場所が他にも数えきれないほどあるだろうに。
それを全て叶えてあげられるほどの時間や力量がないことが、どこか悔しい。
「うん、本当に綺麗だ。」
吹き付ける風に任されるままそう言ったら
君は心の底から嬉しそうに笑っていた。
「よし、じゃあお願い事っ!」
鳥居の真下で、君は手を合わせた。
ついさっきまで悩んでいたというのに、君は結局何を願っているのだろうか。
隣の人が祈り出した時、僕が手持ち無沙汰になるのは言うまでもない。
何を願っても叶ったことなんてないし、祈り事なんて無意味なことだとは思っているが
ここは素直に、君に乗っかろうか。
目の前に開ける一面の湖、真っ赤にそびえ立つ鳥居の真下、正面から吹き付ける風の中、君の隣。
もうこれ以上に何もいらない。
僕の願いを、どうか叶えて欲しい。
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もちまる。(プロフ) - すずさん» すずさん、コメントありがとうございます!感動して頂いたようで何よりです。応援ありがとうございます!ご期待に添えるようこれからも頑張っていきますね! (2019年8月11日 20時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 今この作品を見終わったのですが、とっても感動致しました。野坂くんも過去に戻ってしまうというところがこんな展開他にはないな、という感動を覚えました。更新、頑張ってください!これからも応援させて頂きます! (2019年8月10日 0時) (レス) id: b95394d06b (このIDを非表示/違反報告)
もちまる。(プロフ) - おみかんさん» おみかんさん、コメントありがとうございます!そんなことを言って頂けて、ほんっとうに嬉しいです。応援ありがとうございます!今後も頑張っていきますので、完結までお付き合い頂ければ幸いです! (2019年8月5日 9時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
もちまる。(プロフ) - 姫菜さん» 姫菜さん、コメントありがとうございます!作品に入り込んでいただけだようで、とても嬉しいです。深くこの小説をお読み頂き、本当にありがとうございます!今後も是非楽しんでいただければ幸いです。更新頑張ります! (2019年8月5日 9時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
もちまる。(プロフ) - めりさん» めりさん、コメントありがとうございます!前作から読んで頂いているんですね…!とっても嬉しいです。私も大好きいいいいいいこれからも是非お読みいただければ嬉しいです!!!!笑 (2019年8月5日 9時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もちまる。 | 作成日時:2019年8月1日 21時