そして、君の幸せに生きた。3【野坂悠馬】

感情的 ページ4

「あぁ、この間のことだけど。」


しかし、そんな私の懸念とは裏腹に
話を始めたのは彼の方だった。


「柄にもなく感情的になってしまったね。すまなかった。」


「かんじょう…？」


「僕の言ったことは気にしないで。」


「ねぇ、それってどんな。」


全く意味を見出せず、自分の中から排除したそれを
あの時、見つけたと言うのだろうか。


相手が謝罪を入れてきているというのに、無礼な奴だと思われたかもしれない。


だけど私は、彼の前において何よりも「感情」という言葉に敏感なのだ。


「どんな、気持ち…？」


「どんな？」


そう短く聞き返した彼に、唾をゴクンと飲み込んで小さく頷いた。


「さぁ、どうだろうね。」


しかし彼は、またその言葉を利用してはぐらかす。「さぁ」「どうかな」戦法だ。


「えー、気になるじゃん。」


「じゃあ、僕はこれで失礼するよ。」


「あ…うん。お饅頭、ありがとね！」


「あぁ。」


「あとで連絡するから、ちゃんと見てよねー！」


「気が向いたらね。」


結局そんな不確かなことを言って、彼は帰って行った。


再び私は一人になったわけだけれど、どうしてだろう。


さっきと比べたら、胸の中に渦巻いていた虚しさや寂しさは遥かに小さくなっていた。


やっぱり、青いカケラを使うのはやめにしよう。


こうして話をしたことも、花火に行ったという思い出も、何もかも。


私はやっぱり、消したくない。


消えるのはこの命ひとつで、充分だろう。


そう思った途端、肺を後ろから殴られたように突発的に咳が出て、止まらなくなった。


へなへなとその場に座り込んで、口元を手で押さえながら数秒間耐える。


その手を離した時には


手のひらにべったりと、血が付いていた。


「…はは、は…。」


乾いた笑い声が部屋に響く。


彼のいない時を選んで体調が悪くなるのだから、私の体は随分と優秀なようだ。


彼に何と連絡をしようか。


自分の喉から出てきた血には気にも留めず、その晩ずっと、そんなことを考えていた。


“おはよう野坂くん！今日の分のお菓子、また今度渡すからね！！”


結局、連絡をしたのは翌日だ。


「気が向いたら」だとかと言っていたくせに、ものの10分足らずで彼から返信が返ってきた。驚くべきことだ。


だけどその内容に、私は思わず携帯を落としてしまうほど驚愕することになる。

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