#29 「エリンギプール」 ページ29
私はせいぜいこの永瀬くんと1対1で話すのが、限界なのだ。
「あんなぁ。それじゃ意味ないのよ」
「…え?」
「Aちゃん、友達作ろ。おれとコジローだけじゃ、足りないやろ」
ポン、と右肩に置かれた彼の掌。
その重みを感じる肩は、じんわりと温かい。
「…コタロー」
「………足りないやろ、な?」
あぁ、風が吹いてる。
優しく頬を撫でながら、こっち来いって強引に。
私の背中を押すように。
「あー、おれも定期買わんと」
往復360円の交通費。プラス向こうから帰ってくる分も含めたら、合わせて540円。
…あぁ、もうほんと。
私なんかの“友達作り”のためだけに、そんなお金。
「…ごめんなさい」
未だに消えない申し訳なさを引きずりながら、また彼の隣で電車に揺られる私が居た。
「え、なんで?」
「今日だけで交通費、いっぱいかかっちゃって」
「はは、いや違うのよ。こんな良いお金の使い方したの久々やわ」
彼の放つ何気ない一言一言が、確実に私の心に染み渡っては溶けていく。
こうも私の憂鬱を綺麗に丸め込んでしまうのは、きっとこの人の才能なのだと思う。
「あの…急に私なんかが行っちゃって、大丈夫…なんですかね」
「だーいじょぶよ。紫耀にも海人にも、あとおれにも、そんな気遣わなくてええの。てかおれが今言っとくわ」
…あ、そっか。
当たり前だけど、さっきのアプリで彼はあの2人とも繋がっているんだ。
私の画面には永瀬くんの名前しか載っていなかった一方で、彼の画面にはズラっと色んな人の名前が並んでいた。
友達が多いとこんなになるの?って、軽い衝撃。
『なぁ』
『さっきたまたま昼休みの子と会ったんやけど』
『色々あって今から2人でそっち行く』
画面の上に表示される名前のとこが、“エリンギプール”ってなってる。
何それ、って思ったけど。まだツッコミを入れる勇気はない。
「あほら、見てみ」
「えっ、もう返信来たんですか?」
「おん。あいつらこういう返信だけはめちゃくちゃ早いのよ」
私の方にスマホの画面を傾けて、自然と寄せられる肩と肩。
恋愛どころか人間関係にすら疎いからって、こういうのを全く意識しないって言ったらウソになる。
逆に意識しないようにする方が、無理があるもの。
『え!まじで?』
『やったーーー!!』
永瀬くんが打ち込んだ文字の下には、白い吹き出しが2つだけ並んでいた。
#30 画面の奥のハプニング→←#28 春らしからぬ思いつき
2258人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もちこ(プロフ) - yimmさん» はじめまして!コメントありがとうございます。お楽しみ頂いているようで何よりです…!ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります! (2020年10月25日 17時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
yimm(プロフ) - もちこさん、はじめまして☆お話楽しく読ませていただいてます。この後の展開を妄想するとなんかだかドキドキ(笑)更新頑張ってください。 (2020年10月25日 7時) (レス) id: 72bd3737bf (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - しおりさん» コメントありがとうございます。主人公可愛く書けててよかったです…!これからも是非色んな想像をしながらお楽しみいただけると嬉しいです、よろしくお願いします!! (2020年10月23日 17時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
しおり(プロフ) - 欲しいスタンプ俺が買ったるって何語ですか…?永瀬さんの妹になって買って貰いたい!それからなんですか!主人公ちゃんの可愛さ!!永瀬の妹って立場利用して主人公ちゃんと付き合いたい! (2020年10月22日 21時) (レス) id: 199b427b1e (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - mさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けてとっても嬉しいです。ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります! (2020年10月20日 22時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:もちこ | 作成日時:2020年10月13日 19時