四歩 ページ5
貴女side
貴女『息…はあるわね』
川から引き上げた治を土手に寝かせる。
貴女『毎度よく飽きないことで……』
何時もの事だからこちらの恐怖心が薄れるか、
と云ったらそういう訳ではない。
私と作之助は治の保護者みたいな感じだったから
毎回ものすごく心配したものである。
太宰「はっ」
貴女『目が覚めた?』
太宰「むぅ…Aさんが助けてくれたのかい」
貴女『そうだけど』
太宰「…そうかい。有難うAさん」
ふぅと息を吐くと治は笑いながら私に礼を云った。
太宰「国木田君は何か云ってたかい?」
貴女『ええ』
太宰「何と云ってたか予想はつくけど…」
貴女『"夙く戻って仕事をしろ"ですって』
だよねぇ、とゴロゴロと転がる治。
太宰「ねえAさーん」
貴女『ん?』
治は暫くゴロゴロした後、
ピタリと止まって私の方に近寄る。
太宰「Aさんは、私と来て良かったの?」
貴女『…如何してそんなこと云うの?』
太宰「ちょっと気になって」
少しだけ申し訳なさそうに治は苦笑する。
貴女『そうねぇ…マフィアに居ても
私はそこそこ善い立場にいたし困らなかったわね。
…でも作之助は居ない。貴方も居ない。でしょ?』
太宰「…」
貴女『森さんにはお世話になったし
やっぱり罪悪感はあったわ。でも………』
私は黙る。
作之助を死に追いやる計画を立てたのは彼。
それは、変わらない事実だった。
太宰「その…ごめん、なさい」
貴女『あぁもう!何で謝るのよ』
えい、と治の頬を引っ張る。
貴女『治、貴方だって傷付いてるんだから。
私も作之助を守りきれなかった。お互い様よ』
横に立つ作之助が顔を歪めた。
作之助まで申し訳なさそうな顔をしている。
太宰「…」
貴女『さぁもう帰りましょ?
国木田君の雷が落ちるわよ』
太宰「うん…そうだね」
治が立ち上がって伸びをしている間に
私は作之助の頬を両手で包んだ。
口パクで"気にしないで"と伝えながら。
太宰「Aさん?」
貴女『どうしたの?』
太宰「ううん。何でもないよ」
貴女『そう?なら行きましょ』
すっかり私より背が高くなった治は
ビショビショの外套を翻して歩く。
私の右側は治が、左には作之助がいる。
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作者名:沙羅 | 作成日時:2019年2月15日 22時